– 低画質掘り下げシリーズ:概要 –
「低画質らくがきにALT(代替)で
うちの子を掘り下げるシリーズ」
としてTwitterに投稿している
掘り下げ文章シリーズになります
投稿日がその子の誕生日です
※1年でうちの子全員分投稿するわけではありません
※ツイートは遅刻しがちですが当サイトでは
間に合った場合の日付で表示します
〈概要〉
名:ユキト -Yukito-
登場:トリドリ日記。
ユキトのあれこれ。 (’23/12/06)
南の極地サウズフィナでユキドリの群れに生まれたが、仲間たちより寒さが苦手であった。
ただでさえ寒いのに雪浴びなんて正気じゃねえ!でも仲間たちは「それくらい平気だろ」と言った。母は「きっとそのうち平気になる」と言った。
ただ、父は実のところ寒さが苦手だったらしい。「少し感じ方が違うだけさ。本当に寒いときは皆くっついて過ごすじゃないか。それに誰も自分の羽毛に誇りを持っているから、強がっている部分もあるだろう。」
ユキトは若くして旅に出た。寒がりな自分の安住の地を探すため。そして、こっそり心に決めたことがあった。「いつか、すんげーあったけーもん持って帰るんだ!」
ユキトはその後、北国都市ホロトキで力尽きていたところをヒト族のマナヤに拾われた。それからしばらくマナヤとその家族の家に居候した。マナヤの妹、小学生マナカの絵日記で「ヒトは最後にマル(。)を付ける」ことを知った。
しかしある日、マナカが交通事故で突然この世を去った。
ユキトはホロトキ郊外で「最後にマルが付く日々」を目指して暮らし始めた。
イカがおいしい、都市がすごい、マナヤがいて、トモダチがいる。ちょっぴしさびーけど安住の地は既にここである。
しかし「あったけーもん持ち帰る」の答えは未だに出ていない。きっとそれが、故郷の皆の笑顔がユキトの最後のマルである。
〈概要〉
名:クリフ -Chrif-
登場:ドラゴン共よ冬を越せ
クリフのあれこれ (’23/12/25)
クリフの父、リュヌは内気な男であった。
彼は寒冷地フォルニャーダで同じ竜族のイヴと出会った。彼女は神をまつる一族の、明るく慈悲深い竜であった。
後にイヴと結婚したリュヌは、イヴの実家である山の洞窟で共に暮らすこととなった。そこにある土地神の祠を共に手入れするようになった。
神は然るべきときに導きの短冊を祠に落とす。そこではそうして信仰されてきた。
ある冬の日、フォルニャーダに地震が起きた。さらにその直後、嵐が訪れた。
地震など滅多に起こらぬ土地だった。その災害は神のお怒りと称された。
イヴは幾度も祠に祈りを捧げたが、神は短冊を落とさなかった。
そのとき神…竜神ターナは遠出していた。本来の土地神でないターナにはあるべき察知の力もなかった。
イヴは麓の村の民たちの重圧にあてられ、自己犠牲でこの世を去った。
それから次第にリュヌは心を病んでしまった。
神が恨めしいくらいだが、イヴがそれを望まないことはわかっている。
幼い息子クリフに対しても当たりが強くなった。
リュヌは自ら危機を感じ、クリフがひとりでも困らないように育てようとした。なんとか、なんとか。
しかし結果的に、クリフに自分は無価値だと思わせる形になってしまった。
とにかく祠を拭いておけばいい。笑って合わせていればいい。他人に興味を持って、ただし責任を押し付けられないように、遠巻きに。
リュヌの理想は、イヴの幻想と自らの願いで歪であった。
クリフはまだ、父の変わり様もわけがわからない歳だった。自分だって母がいなくなって寂しいのに。
しかし、イヴに似たクリフは「いい子」であった。
クリフはいつも気を遣う子になった。荒んだ父に怯えながらも、幼馴染のハロワに支えられ平気になっていった。
リュヌは祠に呻き声を上げ、嘆くばかりになった。
そのうち竜神ターナが、リュヌを南の島ココノツィアに送った。そこには頼れる土地神がいる。
クリフにとっては突然、父もいなくなった。
少し経つと、ハロワも旅する家業の都合でいなくなった。
その後クリフはヴァルに出会うまで、ひとりで暮らしていた。村に下りることもありながら、民に好かれながら、ひとりであった。
〈余談〉
クリフは正直サンタクロースに対して、いなかったらいいなと思っている。
来てくれた覚え、ないから。
〈概要〉
名:レモラ -Remora-
登場:がぶ氏と代理世界組
BGM:ちょっとマシ
レモラのあれこれ (’24/01/09)
そこはグランファンタジアという世界。
世界樹に浮遊大陸、魔境なんかがあって、魔法の源マナに包まれている。どこだって神が見守っていて、精霊が支えている…そんな世界。
レモラはそこで遅延の精霊として生まれた。
その名の通り何事も遅延させる魔法の力を持つ。他にできるのは浮遊すること、泳ぐこと。不器用で、喋ることもできない。
レモラは自分のできることを探した。何処へ行っても嫌われた。次第に悪魔と呼ばれるようになった。
他の精霊たちは星や文明に貢献しているのに。喋る精霊や表情豊かな精霊は文明と心交わしているのに。
自分は邪魔することしかできない。邪魔したいんだと思われている。
そのうち誰かに近づくことも躊躇うようになった。何かしようとして浮かぶ記憶は、怒号と、悲鳴と、恐怖と、嫌悪…。
何もしないでいたって、消えてしまうわけじゃない。でも消えてしまいそうな気持ちで生き続けた。ずっと、どこかが痛い。何か成し遂げないと、生きているだけで邪魔しているような気分になる。
何かしてもしなくても、だんだん自分が嫌いになって、自分の中の自分が底へ底へと沈んでいく。世界が怖くなって、弱気になって、悪循環に陥るほど、本当に何もできなくなっていく。
…どうしても何かしたくて、まだ時々誰かに近づく。
大丈夫、大丈夫。
「もう嫌われているはずだから」
根っからネガティブでたぶんもう治らない、そんな自分も嫌いだけれど、もうマイナス×マイナスでプラスにするしかできなくなった。
やらないよりはやってみた方がいい。
たぶん、きっと、ちょっとマシ。
ひと昔前、グランファンタジアで「異界の扉」が開いた。それからグランファンタジアの精霊たちは代理世界に出入りできるようになった。そしてしばらくして、レモラはがぶ氏の代理世界組と出会った。
最近は時々代理世界に遊びに(?)来る。がぶ氏に懐いているらしい。がぶ氏と代理世界組は、ただただ「かわいいねー」「またおいでねー」って、マスコット扱いしている。
がぶ氏の創作は、相変わらず遅れている。
〈概要〉
名:れう -Reu-
登場:れう×ぼえ
BGM:スペシャルムーン
れうのあれこれ (’24/01/31)
(プレシャスプラネットという世界のおはなし。)
れうの1番古い記憶。小さな幼鳥だったとき、彼は怪物に育てられていた。
とてもとても大きくて、あたたかくて、硬いようでやわらかい鱗が、ほろほろと剥がれ落ちるのが心地良くて。
そのドスの効いた声に、不思議と安心していた。そしてただ1つ、れうが今でも覚えている言葉がある。
「…に迷って…ときは、…ぼえの…方に、行く…がいい」
その怪物は本当の父ではなかった。れうも今ではそう察している。しかし、れうにとっては父であった。
…その怪物は、ある日突然いなくなってしまった。
北国の冷える森の中、まだ幼いれうを、捨てるように置いていった。
ただ、怪物はそこに手紙を残していた。
メーという知り合いのアヒルが拾ってくれると信じて。
『この赤子、遠からぬうちに巣立ちの刻が来る。それまででいい。どうか世話を頼まれてほしい。またも面倒事に巻き込んでしまうこと…本当にすまない。』
「ったぐも、あのひとっだら…」
メーはれうを拾った。れうと名付けた。
メーはアヒルの一家の母。3羽の息子と1羽の娘を持ち、森の皆に好かれていた。
4羽の雛鳥たちは、れうを不気味に思った。
れうは、どう見てもアヒルではなかった。か黒い羽毛に、目力の強い瞳、大きな犬耳。水鳥のようで、水に浮けない。
さらにれうは天然で、やることなすこと少しずつズレていた。それがまた裏目に出た。
そのうち「不気味のか黒い幼鳥」と噂されるようになった。面と向かって言われなくとも、れうにはそれがわかった。
少しして、スペシャルムーンという満月の夜。ふと、曇り空が開けていくのが見えた。
れうは光に誘われるように住処を抜け出し、草花を掻き分け、丘に立っていた。
青き夜、極上の月。心高ぶるままに…
「Awoooooooo──」
れうは遠吠えを上げていた。
気付けば全身に青い毛を纏って、美麗な狼の姿になっていた。
元々こうだったような気さえした。
れうは一度住処に戻ったが…
「……行ぐのね」
メーにだけはれうがわかった。
れうが心に決めたこともわかった。
そうしてれうは、「お仲間探し」の旅に出た。
旅の途中、れうはある怪物に出会った。
長い夜を終えた怪物…ボエが、森から旅立とうとしていた。
その姿がれうには、格別に雄々しく魅力的に映った。
ボエに突撃したれうは、ボエの名を聞いて驚いた。
『…ぼえの…方に、行く…がいい』いつかの怪物が…義父が言っていた言葉。
「うんめー!うんめーだべね!!!」
「ボエの方…?運命…???」
興奮しっぱなしのれうと、戸惑いっぱなしのボエ。
ボエは何とか思考を巡らせ、ふと本で読んだことを思い出した。
「……あ、それって、遠吠えのことじゃないかなあ」
なんだかんだあって、ふたりはそれから共に旅することとなった。
〈概要〉
名:ユヅキ -Yuduki-
登場:大惨時クロック
BGM:OVER☆HEART
ユヅキのあれこれ (’24/02/08)
そこは、中東の国“アワレーン”。
異世界スノーボウルプラネットの中ではあまり文明に開発されていない国。
獣人族より動物に近い者ら“獣(けもの)族”が多く、平和に暮らす国。
そんな国の、“レコラ森”というところ。
黒毛でおなかに三日月の模様を持つ、好奇心旺盛なクマの子がいた。
幼い頃のユヅキである。
彼はある日、白いクマに出会った。
「白いクマなんて初めて見た!かあっこいいなあ」
「……ほんとは白いクマじゃないんだけどね、なんか白かったの…生まれつき」
白いクマはおだやかな風貌。
「だからみんなぼくのことシロクマって呼ぶんだ」
「…名前は?あ、おれ、ユヅキ」
「ロロ」
シロクマというあだ名は、別に悪口ではなかった。
ただ、ロロのことをロロと呼ぶのは、ロロの家族とユヅキだけであった。
ロロは、ユヅキにとって一番の友になった。
「ユヅキ、それ、なに?」
「これな、油時計!」
少し遠くの“村”と聞くところで売られている、文明の利器。
幼いユヅキは、父に貰ったその油時計を、
いつも、懐に抱えていた。
ある日、ユヅキは道端でマッチの箱を見つけた。
「なんか入ってる…棒?」
彼はマッチというものを知らず、興味本位で触っていた。
「赤…赤。」
箱の側面、マッチの先端。
ぶつけてみた。当てて、動かしてみた。無邪気だった彼にとっては、それだけのことだった。
瞬間、マッチに火が着いた。
慌ててマッチを手放してしまった。
驚いて懐からこぼれた油時計が、岩に落ちて割れてしまった。
油に火が着いた。
燃え広がった。
「ま、まって…なんで……」
「…だれか!だれか!!!」
ユヅキは必死に逃げた。
近くにいた両親の元に向かった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
「もう謝らんでいい、とにかく…」
だが既に、どうしようもなかった。
周囲に危険を知らせること、そして自分たちが逃げることで精一杯だった。
ユヅキの父カヅキは、ユヅキを背負って走り出した。
しかし母モエワは運動能力に優れておらず、転んで脚を痛めてしまった。
「私のことはいいから…」
「…置いていけるか!」
息子であるユヅキが一番大切。そうは思っても、最愛の妻も大切で。
「ユヅキ!走れ!!!」
カヅキはモエワの肩を支えて、急いで逃げたが、ふたりは火に飲み込まれていった。
木々は次々と燃えて、騒ぎになっていった。
ロロにも騒ぎが届いた。煙が及んだ。火の粉が飛んできた。
今燃えているのは10メートル、20メートル、50メートル以上先かもしれない。だが今にも火傷してしまいそうなほど、その火の粉だけでも恐ろしい。その煙が、温度が、恐ろしく眩しい。そしてそれが、またたく間に近づいてくる。
そのとき。
「ロロ!!!」
ユヅキがロロを見つけた。
黒い煙の向こう、誰とも違う白いクマ。
ロロはその声で、ユヅキに気がついた。
「…ロロ、ごめっ、…逃げて……っ!」
ユヅキが燃えている方から走ってくる。
疲れ果てて、涙目で、足元の悪い倒木の中。
助けなきゃ。
ロロは、その一心だった。
「……っ!」
ユヅキに木が倒れてきた。
下敷きになったのはロロだった。
「ロロ…!なんで……」
ロロが、自分のせいで。
「重い…いやだ、まって、こんなの……っ」
「だれか…だれか……!!!助けて……」
ユヅキは何とか助けようとしたが、既に猶予はなかった。
「ユヅキ、逃げて」
「でも…っ!」
「行って!」
ロロは、ユヅキの脚を押した。
ちっとも力のこもっていない手で。
「ごめん…ロロ、ごめ、ごめん……」
いくら涙が流れても、火は消えてくれない。
ロロは火に包まれた。
「…白くて、よかった」
ユヅキにはよく聞こえなかった。
それがロロの、最期の言葉だった。
数年後。
もう獣族のひとりも住んでいない、森の焼け跡。
茶色の毛でおなかに三日月の模様を持つ、クマの少年がいた。
ユヅキである。
「…色、薄くなったかな。白じゃ、ないけど……」
ユヅキは、ただ泣き続けていた。
ちょっとした好奇心、考えなしにしたことで、全てを失ってしまった。
ここでは法で裁かれることはない。
誰に責められるわけでもない。
ただ、罪の意識に苛まれ続けていた。
そのうち、よその森“ワカトラ森”から来た小さな少年がユヅキに声をかけた。
少年の名はサハリ。ハリネズミの獣族。
「どうして泣いてるのさ」
「…、俺は……」
ユヅキは、この国にありもしない警察に自首するような勢いで、泣きじゃくっていた。
サハリは動じなかった。
「もう、もう俺は生きてちゃいけない…」
「馬鹿言わないで」
食い気味に言い放った。
「世界が見捨てる命なんてないから。
時間のある限り大切に生きないと。
…時間は待ってくれないよ。」
「……時間?」
サハリは語り出した。
「時の流れってまっすぐで愛おしい。でも、ひとりになっても前に進むっきゃないから。ちょっぴり残酷。
ひとりで進むのは大変だから、みんな一緒に生きていくんだ。
だからボクと、友だちになろうよ!」
そのときサハリは、ユヅキに油時計をプレゼントした。
…後にユヅキの宝物となる、星空模様の油時計。
「一度起きたことは無くならない。今キミがすべきことは、謝り続けることじゃないと思うよ。
キミの大好きな誰かが、キミのことを大好きだから、残してくれた時間でしょ!」
その日から、焼け跡に森を蘇らせようとする茶色のクマとハリネズミの姿が、度々目撃されている。
〈概要〉
名:ヴァル -Val-
登場:ドラゴン共よ冬を越せ
ヴァルのあれこれ (’24/02/14)
(ブレスホワイトという世界のお話。)
〈1. 父と母〉
ヴァルは南の島ココノツィアに生まれた。
ヴァルの父ツンガは、子どもの頃のヴァルにとって厳格な竜であった。
雄竜たるもの強く雄々しく育ち、立派に雌を守らねばならぬ。
ヴァルにそう教え込んだ。
…とうに、日々戦いの起こるような世界ではないのだが。
ヴァルが沈んだ顔をしているとき、母オオミはヴァルを抱いていた。
「おっかさま…」
父が怖いだなんて直接は言えない。母から怖いわよねと言うこともない。ただ、ほんのりあたたかい時間であった。
「お父さん…お父様はね、ホワイトお爺様に憧れているのよ。」
ヴァルにとっての祖父、それは父ツンガにとっての父。
「お爺様は戦を生きた勇敢な戦士。とても立派な竜(ひと)だったから…」
戦…1000年ほども前のこと。
「だからね、あれは強がっているだけなの。本当は頭の中、ふわふわなの。」
「…おとさまは、ふわふわ、いやなのだ?」
幼いヴァルは父のような振る舞いが雄らしいのだと思っている。そして自分に雄らしくなれと言うのだから…
「……ふわふわ、だめなのだ?」
母は答える。
「お爺様という理想のひとを見て育ったから、その理想通りに育つのがいい、それがお父様にとっての当たり前。
でもね、ヴァルは気にしなくていいのよ。…あのひと鈍感だから、仕方ないの。まっすぐなのが良いところで、悪いところなの。」
幼いヴァルには、難しいことだった。
〈2. 幼なじみ〉
子どもの頃、ヴァルは雌の幼なじみであるエルとマナとよく遊んでいた。
エルはよくヴァルをからかう子で、マナは真面目な子であった。
流行りのオシャレだとか、噂のイケメンだとか…そういう話題であれど、いつもヴァルは一緒にいた。
「見てマナ、こないだ言ってたリボン!」
「かわいい!いいなあ、どうしたのそれ」
「実はねえ」
楽しいお喋り。ただ、ヴァルにとっては、そこにいても少し遠いもの。
「~ヴァルにはわかんないでしょお」
エルのからかいに悪意はない。というかヴァル本人は、からかわれている自覚もない。
「…私も、かわいいと思うが」
そのリボンを、雄が好きだと言うのは、変なのだと思いながら。でも、幼なじみの前では、少し素直になれる。
雄のそんな発言をエルが別の意味で真に受けていることに、ヴァルは気づいていない。
時折、エルはヴァルにアクセサリーを付けて遊んだ。
「ほらヴァルちゃんかわいい~。てかウチらよりかわいいくね?ずるい」
「ま、またやってるの……」
マナはヴァルが嫌がっているのではないかと心配していた。しかしヴァル本人は、満更でもない。
はたまた、雑誌のイケメンの話をしているとき。
「やっぱ時代はタタでしょ」
「んー、完璧すぎてちょっとこわいかな…」
人気アイドル、ハスター。通称タタ。
「ヴァルはこういうの見ても…」
エルは、内心、嫉妬を期待していたかもしれない。
雑誌に見惚れるヴァルの表情に、エルは狂わされてゆくのだが、それはまた別の話。
〈3. 大将〉
ココノツィアでは、土地神が平然と住民に姿を見せて暮らしていた。
その土地神…竜神グランダは元々ココノツィアの土地神ではなく、世話焼きな彼は事情があってそうなったのだが。
グランダは住民たちに「大将」と呼ばれ、頼りにされていた。
「大丈夫。何の心配もない。ゆっくりと、その一つ一つが、やがて実を結ぶ故、な。」
「……。」
グランダが黒い細身の雄竜と話しているのを、ヴァルは幼い頃から度々目撃していた。
「りゅ…にゅ?」
「おお、ヴァル公。」
「たいしょー」
グランダの、優しい目。落ち着いた声。やわらかい物腰。幼いヴァルのグランダを慕う気持ちは、少年期を通して次第に恋に変わっていった…かもしれない。ヴァルはまだ自分のそれをよくわかっていなかった。
グランダと自分の間には障壁だらけで、そんな恋など存在しないものだと思っていた。
「大将、私は…私は……」
やはり自分は、父の求めるような雄にはなれない気がする。なりたいと思えない気がする。
青年期に差し掛かったヴァルは、グランダにほんのりと相談した。
「恋に…悩んでいます」
グランダは薄々それを感じていた。それを相談されればヴァルに提案することも、考えていた。
「フォルニャーダという寒冷の地に、竜神ターナという恋愛の神がおる。
滅多に姿を現さぬ…極一般的な、神であるが。
きっと貴方を気に入る筈だ。…曲者(くせもの)ではあるが。」
何だか歯切れが悪いが、ヴァルは気に留めなかった。
〈4. 旅立ち〉
雌の幼なじみと共にいたからか
かわいいと愛でられるのが嬉しかったからか
父に怯えて父と違うおじ様に惚れたからか
優しく抱いてくれる母に憧れを持ったからか
元よりそういう感性だったのか…
理由はハッキリとしないが、
自分は雄に惚れてしまうし、雄に愛されたいのだと
その事実はヴァルの中で、少しづつ明確になったから。
巣立ちのとき。ヴァルはフォルニャーダへと旅立った。
父にはぼんやり、修行の旅に出るかのように言った。
その後ヴァルはフォルニャーダで吹雪の中に遭難し…
同じ竜族の若者クリフに救われ、彼の住処に居候することとなるのだった。
それが決まったとき、住処にある神の祠に短冊が降りてきた。
「ドラゴン共よ 冬を越せ」
〈概要〉
名:ティエラ -Tierra-
登場:戦士と帽子
ティエラのあれこれ (’24/02/29)
〈ティエラの概要〉
・フルネーム…ティエラ=リェノ=リベルタ
・「星座爆弾」と呼ばれるスキル“エステラル”で相手を翻弄する戦士。
・ミナが闘技城に参入する8年前からずっと闘技城にいるようだが、あまり戦闘に参加していない。島中で度々目撃される、神出鬼没なレアもの。
・陽気で快活、よく笑う。しかし何を考えているのかよくわからない、ミステリアスなひと。
〈ティエラのあれこれ〉
(バタラデラントという世界のお話。)
ティエラが幼い頃、二度目の大規模戦争が終わった。
ティエラは物心ついた時には孤児院にいた。両親は戦争でこの世を去ったと聞いた。
ティエラはとても要領の良い子であった。勉強も、遊びも、労働も、他の子どもたちより優れていた。
孤児院の“母”が読ませてくれる本を、いつも楽しみにしていた。
ある日、“戦王伝記”という本を読んでいたとき。通りすがりの鍛冶屋の鰐獣人が帽子をプレゼントしてくれた。
それは“兜帽”…被ることで魔法や特殊能力が得られる、戦士の帽子。
貰ったのは無属性魔法の力を持つ恐竜のような帽子“サルトロオ”。
ティエラはその帽子の力を引き出し、数日にして空間跳躍スキル“エスパシオ”を会得した。
一瞬にして遥か遠くへワープできるスキル。その存在すら隠されるほどの、激レアスキルである。
ティエラは様々な場所にワープした。
本で読んだ場所、本で読んだもの。
戦争で壊れてしまった場所も沢山あったが、最初のうちは感動していた。
戦勝国。敗戦国。独立国。植民地。未開の地…
何処にでも行ける。何でも見られる。
本に書かれていなかった人々の気持ちも、本に載らない人々の姿も、敵国の正義も、何でも。
ティエラは星空を眺めるようになった。
何処にいても同じ空を見ているのに、違う星空が見える。
どれも正しい。どれも正しくない。
自分はどんな「星座」になりたい?
何処で何をすることを選んでも、喜ぶひとがいれば悲しむひともいる。
だったら、心の「気分」に正直に。
この世で1番、自由に生きる。
(しばらくして…)
強き戦士を目指す(?)ティエラの、今現在の目標は…
星空に辿り着くこと。
〈余談〉
ティエラが空間跳躍スキルを持っていることは、闘技城内でも知られていない。
〈概要〉
名:サハリ -Sahari-
登場:大惨時クロック
サハリのあれこれ (’24/03/03)
そこは、中東の国“アワレーン”。
異世界スノーボウルプラネットの中ではあまり文明に開発されていない国。
獣人族より動物に近い者ら“獣(けもの)族”が多く、平和に暮らす国。
そんな国の、“レコラ森”というところ。
「う、嘘……」
「これは……」
ハリネズミの獣族…その普通より指の少ない、サハリが生まれたとき。
両親は絶望に打ちひしがれていた。
「うまれたの?おとうと」
聞いたのはサハリの兄、ツナツ。
「……駄目だったのよ」
生まれなかったわけではないのだが。
サハリは『惨時の呪い』というものを持って生まれた。
「ツー、川の方で遊んでらっしゃい」
「?はあい……」
両親は、ツナツのいない間にサハリを焼却処分しようとした。
「燃やしてしまうしか、ないものね」
「薪はこれでいいか」
「後はこのマッチで…」
そのマッチ箱は、ツナツにはたき落とされた。
「…なんで?なんでもやすの!?」
「…ツー、盗み聞きだなんて」
「せっかくうまれたのに」
「この子は呪われているの」
「そんなよくわかんないことで」
「仕方のないことなの!!!」
「……っ」
ツナツがあまり主張すると、母から「罰」が下される。
「全くいけない子ね、ツーには見せないようにと思って…」
「だって…もやしちゃうなんて……」
怯えて、震えて、弱腰で、それでもツナツは抵抗した。
「…わかったわ。燃やすのは中止。でもうちでは育てられないから、ここに置いていく。いいわね。」
そんなことを言いながら、両親はツナツが寝静まってから燃やしに来るつもりでいた。
そうする前に、森を徘徊していたサメの獣族が捨てられたサハリを発見した。
若い頃のナツメである。
「おまえ、ひとりなのかー?」
サハリは、おとなしく寝そべっていた。
「なんでマッチなんて落ちてんだ…?」
サハリは、鳴き声のひとつも上げない。
「親はどこだよー?こんな赤んぼ置いて…」
ナツメはサハリを乗せて親を探した。
サハリはサメであるナツメに動じなかったが、次第に弱っていくのがナツメにもわかった。
「や、やべーかも…」
ナツメは“ワカトラ森”のトカゲの獣族、魔女マレーの小屋を訪ねた。
「ばっちゃん助けてくれ!」
「なんだい大声出して…」
魔女はサハリをあたため、ミルクを与えた。
「まだ生まれたばかりじゃあないか」
「親が見当たんなくてよお…おれ戻ってみた方がいいかな」
「……」
魔女は魔法でサハリを『鑑定』した。
「……戻っても無駄かもしれないね」
「え?」
「この坊や、呪い持ちだ。となれば…大方、予想がつくさね」
「それって……」
不安の表情を浮かべるナツメを横目に、魔女は呪文を唱えた。
「……アタシの解呪が効かない」
それはとても強大な呪いであった。
「…こいつ、育ててもらえねーのか?」
寂しそうな目を向けるナツメ。身寄りのない赤子。
魔女は放っておけなかった。
「暫くはアタシが面倒見てやろう。どうせ隠居して退屈していたところだ。」
「ばっちゃん!」
ナツメは喜んだ。
「いいかい。呪いのこと、この坊やには絶対に言っちゃいけないよ」
「おれはいいけど…ばっちゃんこそ隠し事できんの?」
魔女マレーは正直者。曲がったことが大嫌い、で有名である。
「…未来ある坊やに重荷背負わせるなんて、嫌なんだよ」
「ふーん……」
「なに、アタシが解いてやりゃあいいんだ。呪いなんて慣れっこさ」
魔女はサハリを育てることと解呪の研究に全ての時間を注いだ。
サハリが歩き始めても、言葉を話し始めても、呪いは解けなかった。
「危ないから入るんじゃないよ」
解呪の研究をするとき、魔女は絶対にサハリを部屋に入れなかった。
いつも取り繕わない義母の言葉、サハリは一度だって疑わなかった。
「ばあば、これなあに?」
「これはね──」
サハリは砂時計を気に入った。
「いつだってまっすぐに流れ落ちる。美しいだろう」
「まっすぐ…」
砂が、落ちきった。
「さんぷんきっかり」
「…っアンタ、やるね」
サハリの体内時計は、恐ろしいほどに正確であった。
サハリが少年になった頃、魔女は寿命を迎えた。
最期まで、サハリの呪いを解くことはできなかった。
サハリには何も言わず、小屋にひとつ魔法を残していった。
サハリは大きくなったから、次第に遠出するようになった。
「今度はレコラ森、行ってみよっと。焼け跡だそうだけど…」
〈概要〉
名:ノラ -Nora-
登場:野良犬と桃太郎 (#のらもも)
ノラのおはなし (’24/04/11)
それは、とある世界のおはなし。
動物が人間と同じ言葉を話す世界。
人間は賢いので、動物たちは人間の村に近寄りませんでした。
人間も、欲する食料以上には動物たちに干渉しませんでした。
「飼う」といったら、家畜や奴隷。
そんな世界の、とある村のおはなし。
畑の上手な若者が、野から連れてきた犬を家に住まわせると言いました。
理由は「かわいいから」。
「ペット」と名付けられたその犬は言いました。
「服従すれば狩りも争いもしないでいいってんですから、ラクなもんですよね。」
そのうち、村で「動物を飼う」ことが流行り始めました。
人間に甘んじたその動物たちは「飼い犬」、「飼い猫」…まとめて「ペット」と呼ばれるようになりました。
「いやそれ私の名前…まあいいですけど。」
しかしあるとき、突如として現れた鬼の軍に村が襲われました。
若者は…ペットの主は、ペットを庇って殺されてしまいました。
「ごめん、な…頼りなく、て……。」
(全くです。これだから人間は…)
本当はそんなこと思っていません。
(野良だった私が…どうして、どうして守れなかった?)
頼りないのは自分の方です。
その犬は野に帰りました。
(己を磨き直して、そしていつかは、鬼共を…)
首輪を付けたままのその犬に、
ひとりの若者が話しかけました。
それは…
「ももたろさん」と呼ばれる人でした。
〈概要〉
名:ヒギエア -Hygiea-
登場:やめちゃら系統
BGM:ぱれーどん@ヒギエア!
ヒギエアのあれこれ (’24/04/12)
〈ヒギエアの概要〉
・オリジナルBGM やめちゃら系統10「ぱれーどん@ヒギエア!」主役
・対応タグ:#スノーボウルプラネット
〈ヒギエアのあれこれ〉
そこは、かなた「きらめきの銀河」。
そこに浮かぶ惑星たちの間では、「太陽様」の話題が絶えない。
時には「デブリ」から銀河を守るスーパーヒーロー、時には誰もを魅了するスーパーアイドル。
きらめきの銀河の、平和の象徴である。
そんな太陽様に憧れる、薄暗い灰色の小惑星がいた。
名を「ヒギエア」という。
ヒギエアは、太陽様と違って恒星ではない。自分の力で輝けない。そんな惑星たちは反射の力が輝きとなる。
ヒギエアは、小惑星の群れ「ヒギエア族」の長であるが…
反射の力はとても弱い。
ヒギエアは昔、太陽様に助けられたとき、憧れを抱いた。その発熱の輝き、燃えたぎるエネルギーが、目に焼き付いた。
憧れはしたが、自分はヒーローにもアイドルにも程遠い。
「プロデューサーA. G. 」と名乗る「住民」に誘われたこともあったが、返事はしなかった。
きらめきの銀河では、憧れることは良くないこととされている。
どんな生命にもそれぞれの役割があって、そうして世界は巡っていると考えられている。
あるがままの自分を受け入れる、それも素敵なことだけれど。
ヒギエアの胸の内では、「憧れ」が止まない。
あるとき、ヒギエア族が「デブリ」に襲われた。
デブリ、それは住民たちに捨てられた物が闇に染まって生まれる怪異。
ヒギエア族には戦えるものがいない。近くにヒーローの姿もない。
ヒギエアは、戦うことを決意した。こんな自分でも、皆を守るべき長なんだ。
そのとき、小さな太陽のような球体がヒギエアの前に現れた。
それに触れると、ヒギエアの姿が変化した。
その表面は太陽の光を真っ白に反射した。C型の尾が大きくうねり、2つの角が雄々しく尖った。P字の飾りがぐんと伸びた。
小さな太陽はその下に、マイクのように棒を生やした。さらに周りには、無数の雪の欠片を浮かべる大きな輪を広げた。
ヒギエアがマイクを手に歌を歌うと、デブリが浄化された。
戦いが終わると、ヒギエアと小さな太陽は元の姿に戻った。
これは「太陽の加護」…小さな太陽が、そう心に告げた。
その日からヒギエアは、ヒーローになった。アイドルにだってなれる。
しかしそれは、かりそめの姿。どうして自分にご加護が与えられたのかもわからない。
いつか自分の力でこの姿になれるように。ヒギエア族の声援を受けて、ヒギエアの修行の日々が始まった。
──────────
Stare at youっ
真っ黒な闇の中
発熱(かがや)く表面(せなか)にキュンってして
──────────
ヒギエアは歌う。そして、いつか
──────────
Beside youっ
真っ白な星になって
反射(きら)めくマイクをキュってして
──────────
主催地:自分のパレードで
──────────
Plain Plain まだまだ小惑星
パレード on ヒギエア!
──────────
「超超元気でやってます!」
〈概要〉
名:ラック -Lack-
登場:JKドラゴンズ (#じぇけどら)
ラックのあれこれ (’24/04/16)
ラックは幼くして、生き方を教えられた。
その頃は山奥で両親と洞穴暮らし。
山菜や果物を探して、調理する。
バランス良く、適度に食べる。
身体を洗う、あと磨く。
そしてよく寝て、よく遊ぶ。
そうして生活するために、器用な魔法をいろいろと仕込まれた。
それから、祖先から受け継がれているらしい「幸福魔法」と…
「アイテム強化魔法」。これはラックに素質があった。
そして少年になる頃、両親は置き手紙を残していなくなった。
日常生活の心得と共に綴られている文によれば、「いずれ、また会える」…らしいが。
置き手紙を読んでいると、剣が現れた。
ガードに4つ葉を飾った、刃のやわらかい剣。
とりあえず持っておくことにした。
それから1年ほど経った。
もう涙は流さなくなって、何でもない日々を送っていた。そんなある日。
ヒト族の若い男女がやって来た。
「ドラゴンだ」
「えーっぷにぷにしてそー触っていいーっ?」
何だか楽しそう。
「…?うん……」
友だちのつくり方は、教えてもらわなかった。
「えー激ヤバーかわたんーっ」
何を言っているのかわからないけれど…
何だか楽しそう。
「なあなあ、ここら辺に映(ば)えスポットあるって聞いたんだけど…」
バエ……?
「そーそー、空に時たまクローバーの花火みたいのが打ち上がるって!」
「あー、もしかして…」
ラックは幸福魔法のひとつ「グロバラリウム」を空に放った。
「これのこと…?」
若者たちは圧倒された様子。
「えーっこれドラちゃんが打ってたのー!?」
「マジすげー!」
ドラちゃん……。
「なあんか心チルってるわあ…」
「それなー」
チル……?
「そーだ、これあげる」
何か渡された。
青く淡く、キラキラと輝くボトル。
「これは…?」
「アオハルソーダ!今トレンドなの!!」
トレンド……?
「…何これ」
味わったことのない不思議な味。
わくわく込み上げる、しゅわっしゅわ。
足早に去っていった若者たち。まともに会話もできなかったが、ラックはその日「青春」に憧れた。
そしてラックは、ヒト族の住む多彩の街「ベルナダ」に向かったのだった。
〈概要〉
名:クズク -Kuzuku-
登場:大惨時クロック
BGM:ミズ・キカズ・ミミズク
クズクのあれこれ (’24/04/25)
そこは中東の国アワレーン…から南東に少し離れた国、“ミンダラ”
クズクはそこで、森の集落“ヒヤリエ村”に生まれた。
ミンダラでは、ミミズクが『不幸の象徴』とされ避けられている。
だがクズクは小さな頃から意志が強かった。
皆に認められようと、皆に尽くそうとして、何度も近づいた。
それでもことごとく避けられた。
『関われば死期が近づく』と言い伝えられているのだ。
仕方のないことだった。
しかしクズクは諦めなかった。
自分のためだけではない。
家族を支えてくれる父と病弱な母に、しあわせな余生を送ってほしいから。
あるとき、都会からトカゲの3人組が越して来た。
そのトカゲたちはあっという間に村で信頼を得ていた。
だが彼らは花火だとか爆竹だとか危険な遊びをするものだから、正義感の強いクズクは何度も彼らを叱りつけた。
そんなある日、トカゲたちはクズクに歩み寄ってきた。
「なあ、アンタ差別されてんだろ?」
「そうですけど、私達ミミズクは嫌われるようなことは…」
「そうだよなあ、可哀想だ」
「な、なんです…?」
「オレたち、マジメちゃんは好きじゃねえけどさ」
「でも差別ってのはよくないよなあー」
「うんうん」
同情された…同情してもらえた。
クズクはそう思った。
初めてまともに話を聞いてくれる者たちが現れたのだ。
喜んで話をしているうちに、クズクは彼らに心を許していた。
そこにトカゲが問いかけた。
「差別を無くす方法、知りたいか?」
「無くせるんですか!?知りたいです!それは是非!!」
「自殺未遂」
「自…はい?」
クズクの身が震えた。
「アンタが『もうこんな生活嫌だー』って自殺するフリしてさ、オレらが止めるフリするんだよ。
そしてオレらが『なんて可哀想なんだ!差別なんて最低だ!無くさなきゃいけねえ!』…と喚き散らかしゃ村のヤツらも感涙よ」
トカゲたちは自信ありげな表情でクズクを見つめる。
「で、ですが、自殺未遂なんて…」
「なあに言ってんだ。そんくらいのことしねえとダメだろ。生ぬるいやり方じゃ差別は無くなんねえ、それをアンタは今まで味わってきたんだろ?」
「それは、そうですけど…」
やっぱり、そんなやり方はしたくない。
いつものクズクなら、迷いなくそう言っただろう。
「…じゃ復唱してみろよ」
「復唱?」
「復唱すると勇気でっからよ」
トカゲはクズクを木の幹に押し付けるようにして詰め寄った。
「自殺未遂するだけで差別は無くなる、完璧な計画だ
…ほら、言ってみ」
「自殺未遂するだけで差別は無くなる、完璧な計画
……です」
クズクは、押し負けた。
初めてのチャンスなのだ。
このチャンスを逃したら、このトカゲたちに見放されたら、もう次は無いかもしれない。
クズクは、無意識に追い詰められていた。
クズクと別れたトカゲたちは、不吉な笑みを浮かべて密談していた。
「ウマく行きそうだ」
「アイツうぜえんだもんなあ」
「うんうん」
クズクは気がつかなかった。
彼らが村で得た信頼は、都合の悪い者を排除してできあがったものだったと。
そして翌日。
「もう!耐えられません!!」
クズクは自殺するフリをした。
(ごめんなさい、パパ、ママ…。でもこれで、全部…!)
クズクはトカゲたちが止めに来るのを待っていたが、
トカゲたちはある録音データを流した。
『自殺未遂するだけで差別は無くなる、完璧な計画……です』
「…へ?」
あのときの、復唱。
どうして今、それが?
「みんな騙されるなー!アイツは死ぬ気なんてさらさらねえ!」
「ひとの優しさにつけ込もうとするなんて最低な野郎だー!」
「最低だー!」
トカゲたちの言葉に、クズクは困惑することしかできなかった。
今までは騙されることすら無かったのだ。
「…え、ちょっと、話が違」
クズクに石が飛んできた。
住民たちがクズクを睨んでいた。
住民たちはクズクに罵詈雑言を浴びせ、何でもかんでも投げつけてきた。
「…なんなんですか」
「なんなんですか、この村は!!!」
クズクはボロボロになって家へ帰った。
クズクは一休みして、落ち着いて…落ち着いてはいないが、腰を据えて両親に事の顛末を話した。
「本当に…本当に、ごめんなさい。パパ、ママ」
「いいのよ、もういいの…わたしたちのことは」
「そういうわけにはっ!
……っ」
母はクズクを抱きしめた。
「ねえクズク…旅に出てみてはどう?」
「旅…?」
「もう、ここには居づらいでしょう」
『愚かなクズクの悪事』は、もう村に知れ渡っている。
「クズクも巣立ちに丁度いい頃だ」
父も賛同している様子。
「いいえ、パパとママを置いて出て行くなんて…」
「行きなさい」
いつもは温厚な母が、クズクに強い眼差しを向けた。
「あなたはあなたの時間を生きるのよ」
翌朝。
「…行ってきます」
クズクはとても複雑な気持ちでいた。
家の外壁は昨日より傷ついている。
自分が招いてしまった、こんな状況で、両親を残して行くなんて。
…もう自分がいては迷惑なのかもしれない、とすら思った。
歩き出したクズクに、母が一言呟いた。
「クズク…愛しているわ」
「……ありがとう」
クズクは、背を向けたまま返事をした。
その声は、うるんでいた。
クズクが去った後。
「本当によかったのか、これで」
「…ええ。」
母は、一生の別れを悟っていた。
またしても、クズクは気がつかなかった。
〈概要〉
名:スライムA -Slime A–
登場:遊びの始まりだRPG (BGM系統 遊遊シリーズ)
BGM:遊びの始まりだ
スライムAのおはなし (’24/07/04)
〈スライムAの概要〉
・オリジナルBGM (BGM系統 遊遊シリーズ)「遊びの始まりだ」メインキャラ
〈スライムAのおはなし〉
そこは魔王軍が支配した世界、ロールパラグランド。
人類は魔王軍のために辛く貧しい暮らしを強いられていた。
しかしある日、勇者の剣が力を取り戻した。
そして人類から勇者パーティが立ち上が
…ってしまった。
魔王が強欲だったからこうなってしまったのだ。何もおかしいことではない。
ただ、
特に悪さをしたわけでもない、支配を望んだわけでもない魔物の端くれたちは…
無条件に人類に恨まれ、覚えもない復讐を果たされてしまうのであった。
勇者に勝てるわけがない。
かといって人類に手を貸そうとすれば、裏切り者として処刑されてしまう。
そもそも魔王軍の幹部クラスでなければ、人間と喋ることもできない。
チュートリアル感覚で倒されてしまうスライム程度では、なおのこと…。
──
勇者パーティが始めに向かったのは、のどかな草木の茂る“プレインズ平原”。
そしてその最初の討伐相手に選ばれたのは、赤色の…いや、ピンク色のスライム。
きっとスライムAとでも認識されている、そのスライムは震えていた。
…闘志に震える勇者には、気づかれなかったようだが。
戦えと言われたって、能力値は最底辺。
剣も盾も握れない、か弱いスライムAが、勇者に勝てるわけがないのに。
今まで平和な日々を送っていたのに。
何も悪くないはずなのに。
気がつけば、目の前が真っ黒になっていた。
次に目が覚めたとき、スライムAは生きていた。
身体が消滅しかけていたはずだが、誰かに治癒をかけられたらしい。
周囲を見渡していると、空色のスライムがどこかへ這っていくのが見えた。
スライムAは後を追っていったが、途中で緑のドラゴン少年に遭遇した。
そのドラゴンは魔物ではない、人間の言葉を喋るドラゴンだった。
「ほえー、あっちのスライムにそっくり…」
そのドラゴンは、異世界から迷い込んだ異世界住民。
「魔物はみんな悪いって言ってたっスけど…うん、とりま…」
ドラゴンはスライムAに“幸福魔法”をかけた。
しかしそれは、この世界の魔物には毒だった。
スライムAの身体は再び宙に弾けた。
「…ありゃ?」
次に目が覚めると、目の前に空色のスライムがいた。
そしてそのスライムに、治癒をかけられている。平原で助けてくれたのも彼だった。
助けているのに「バレちゃった」と言わんばかりの、紳士な、にこやかなスライム。
…勇者にとってはスライムB、そんなところだろうか。
辺りを見るとそこは廃坑の地、“ロスト鉱山”。
ふたりはスライム言語で言葉を交わした。
スライムBが言うには、近くの町はもう勇者パーティに取り戻されてしまったらしい。
もうこの鉱山に人間はいない。
苦しい状況ではあるが、ひとまず安堵した
…のも束の間。
恐竜らしき獣人らしき何者かが、ふたりに襲いかかってきた。
「あそぼ、あそぼ!」
人間の言葉を話すそれは、異世界から迷い込んだ恐竜人。
近くの町で遊びのつもりで暴れ回り、
「鉱山の魔物にでも遊んでもらいなさい」と人間に吹き込まれて追い出されたのだった。
スライムAとスライムBは必死に逃げ回ったが、最後には彼の“超感覚”…エスパーな能力でバラバラに吹き飛ばされてしまった。
その後もスライムAの災難は続いた。
南国の“アロアロ諸島”に流されては、
その島々で狸と狐と鯨に立て続けにうっかり飛ばされ、
最後には合流した3匹に勘違いで懲らしめられかけ…
熱気の舞う“ヨーレ砂漠”に飛ばされては、
自称アイドルなウサギ少女のワガママに振り回され…
オーロラ色に輝く“ツンドラ氷河”で、ようやっとスライムBと再会できた。
氷河にスライムBの笑顔がきらめいて、スライムAは疑問を投げかけた。
«…どうして笑っていられるの»
うつむいたスライムAの頭を、スライムBが撫でた。
«どんなに転げ回っても、生きてさえいればいい。笑い話にできたら、いい思い出になるさ»
その後もスライムAは。
夜が明けなくなった森“イリュージョンフォレスト”で化け猫に懐かれては、
変わったハリネズミと気だるげな蝶にオバケと一緒に退治されたり…
一面の雲海“モーニングクラウド”まで吹き飛ばされては、
白い愉快な鳥と白いナルシスト鳥人の騒動に巻き込まれて冤罪をかけられたり…
そしてしまいには。
魔王の住まう“イービル城”に落下して、
再び勇者パーティに対峙してしまうのだった…。
スライムAはスライムBの言葉を胸に、最後の戦いに臨む。
〈概要〉
名:ファル -Pharvail-
登場:JKドラゴンズ (#じぇけどら)
BGM:だだほーだい!
ファルのあれこれ (’24/08/09)
異世界スノーボウルプラネットの絶滅危惧種、アルファルドワイバーン。
その目は1里先を見通し、
その角は雫の音を響かせ、
その鼻は雪の匂いを辿り、
その舌は食べ物を豊かにし、
その尾はそよ風に波打つ…
という。
その五感の鋭さに留まらず、魔法の源であるマナも敏感に感じ取る。
そして・・・
周りの生き物の感情をも感じ取る。
ただの便利な能力ではない。
自らの意思を強くもたなければ影響されてしまう。
「シンクロ体質」と呼ばれる。
この無限の可能性を秘めたアルファルドワイバーンという種は数世紀前、戦争をしていた国“ヒュダラ”で「都合のいいように使われて」しまった。
その後しばらくして、“竜を従えるヒト族”が戦勝国ヒュダラを訪れたとき。
アルファルドワイバーンたちはようやく、“研究所”から解放された。
しかしヒュダラは彼らを保護しなかった。
彼らを手放したくなかったはずのヒュダラの不自然な動き。
彼らを狙っていた世界中の“興味”によって彼らが離れ離れになっても、彼らが怪しい連中に攫われても、ヒュダラは動きを見せなかった。
そうして彼らは、前途多難の道を辿る・・・。
──
時は流れ、舞台は東の大国“キャラメリカ”。
アオハルに憧れたドラゴン少年ラックが、
壮年の竜ヴルムと出会って少しした頃。
ラックとヴルムが多彩の街“ベルナダ”に続く小道を歩いていたとき。
「それヤバいイチャイチャっぷりだねーって…」
「イチャイチャだと?」
「言われるっスよー。オレたち同棲してるんだもん。ジョークジョーク。」
「むう、くだらぬ…」
ボワアアアア・・・ッ
後ろの地平線に煙が上がって、ワイバーン…ファルが飛んできた。
続いて、白い防護服に身を包んだヒト族らしき集団が駆けてきた。
「っ!」
フラっと地面に落ちかけたファルを、ラックが抱きとめた。
「下がっておれ!!」
ヴルムが宙にブレスを撒くと、集団は姿をくらませた。
「此の翼竜、よからぬ輩に狙われておるようだ」
何か物憂げな目をしているヴルム。
ラックにとってはわけのわからない状況。
ファルはぐったりと倒れ込んでいる。
「えっと…そだ、病院?どしたら…」
「此れは精神的な疲労だ」
「ヴル…?」
「此奴は…否、何でもよい。アレを使え。」
「アレ?」
「…我と出会うた矢先の」
「!」
「グロバリウム!」
“幸福魔法”のひとつ。球状の液体が4つ葉を纏って宙に浮かび、ファルの身体を包み込んだ。
気を失ったままのファルの表情が、やわらかくなっていく。
「ラックよ、此奴のことだが…」
「?」
誰かが自分を心配している。
胸の辺りがもやもやする。
ラックに覗き込まれて、ファルは目覚めた。
「あっ起き…」
ファルはラックに抱きついた。
それからすぐ仰け反って、離れた。
「あ、あの、ありがと!」
ファルは落ち着きのない様子で話し出した。
「えっと、すごい、すごいね、あれ!」
「あれって?」
「あの、かぷせるみたいな…ふにふに!」
「グロバリウム?…寝てたときのこと、覚えてるっスか?」
「うん!」
ふと、強ばった表情のヴルムをファルが見つめ、ラックが口を挟む。
「あ、このおじさんいつもこんなんだから」
「そーなんだ…?」
おじさん扱いされているが、ヴルムはなんだか上の空である。
ファルが気を取り直して話し出した。
「いたいの、こわいの、さびしいの、とんでっちゃった」
「でしょでしょ?なんかこう、だいじょーぶって…まあ、気休めっスけど……」
ラックからなんだか切ない感情がこぼれた。
「…?」
縮こまったファルを見て、ラックはハッとした。
「でね!だからね!オレたちと一緒に暮らそ?」
唐突な提案である。
ラックはヴルムに手を当てて、続けた。
「このツンデレドラゴンが言ったんスよ!一緒にいたいって!!」
「おい待て其れは…」
何か言いたげなヴルムだったが…
「…んむ、此奴の云う通り……。」
ぼそりと、うなづいた。
「此奴との”同棲”なぞ嫌気が差していたところだ!」
本調子に戻った。
「これがツンデレっス」
「つんでれ」
それは怒りのようで、あんまり怖くない感情であった。
「ね、どお?」
ラックは改めてファルに詰め寄った。
先のことを考えるほど、ファルの中には心配の情が付き纏う。
誰かと一緒にいれば、その誰かを危険に巻き込んでしまう。
「タピって盛って映え写真撮って…楽しいっスよ!アオハル!!!」
しかしラックの心は、ワクワクでいっぱいである。
ファルの心はシンクロし、ほだされかけたが…
「で、でも、おれ、にげなきゃ…」
「独りで逃げて、またのこのこと捕まろうと云うのか」
「そそ!ヴルってめちゃつよだから!へーきっスよ!!一緒にいよ?ねっ」
その心の中に、ファルは希望を見い出した。
「…うんっ」
〈概要〉
名:ドラミーオ -Dramieo-
登場:どれどら (#どれどらи)
ドラミーオのあれこれ (’24/08/30)
異世界“スペルヘイム”。
かつて星を救った「大空竜」の伝説が残るその世界では、竜は大空を統べる種とされている。
強く気高くあるために長き生を授かる、絶対的な存在である・・・という。
強く気高く、誇り高く、、、
夕陽色の竜ドラミーオが、幾度となく父に言い聞かされた話。
ドラミーオは、西洋の地“ウズガルド”の聖地とされる山の頂の一族…少し有名な竜の一族に生まれた。
その歳1000を越える両親と、100以上離れた兄と、50以上離れた姉のもとに。
それから十数年が経った頃。
竜としてはまだ幼いドラミーオが、空を飛ぶ練習をしていたとき。
ボロボロの布切れを身に纏ったハーフエルフたちが鉱石を運んでいるのが、目下の山の中に見えた。
ドラミーオは、その集団を追って住処を抜け出した。言いつけられていた「庭」を、抜け出した。
しかし風に飛ばされて集団を見失い、天候は悪化し、遭難して帰れなくなってしまった。
途方に暮れて泣いていたドラミーオを、ひとつの影が包んだ。
ドラミーオが顔を上げると、ハーフエルフの少女が立っていた。
晴れ渡った空の下。その牙向きの笑顔が、木漏れ日に煌めいていた。
ほんのりと瞬くボロボロの布切れで、少女はドラミーオの涙を吹いた。
「明日は明日の風が吹く。」
弱く小さく、あたたかい声。
「・・・なんとかなるよ。だいじょうぶ。」
少女は懐から赤い紐の付いた鈴を取り出すと、ドラミーオの首に掛けた。
「お姉ちゃんが一緒に…」
なにか言いかけた少女だったが、
「──ッ!」
誰かに呼ばれて、慌てて去って行った。
自分も帰らなくちゃと歩き出したドラミーオは、父に探し出され父の背に乗せられて帰ることとなった。
帰ってからはがっつりと叱られた。ただドラミーオはそんなことよりハーフエルフのことが気になっていた。
しかし、その興味は許されなかった。
ハーフエルフはこの地において奴隷の階級である。気高き竜族は麓の文明のいざこざになぞ関与しない。
ただそう言われるだけだった。
それからまた十数年が経って少し遠くへの外出が許されたとき、ドラミーオはようやく「奴隷」の実態を目の当たりにした。
「どうして。」
麓の村に広がっているのは、ハーフエルフが人間にぞんざいに扱われる光景。
あんなに優しい子が、なんの罪もない子らが、重荷を背負わされている。
もう幼いときとは違うドラミーオは、勢い任せに行動に走ることはなかった。
言いつけられた通り、大人しくしていなければ。
しかし、あの日の少女への思いは消えなかった。
竜として己を磨き続ける日々。
肉体、精神、魔法の鍛錬。“神道”なる文学。
とても冗長で、退屈に感じた。
外の世界の噂が気になった。
けれど表面上は高尚に、従順に振る舞うようになった。
時々、竜でない種にだけ、気さくな自分を見せて、楽しく過ごした。
こっそりと、にこやかな竜の噂が立った。
・・・しばらくして。
200歳を越えて、巣立ちのときが訪れた。
ドラミーオは麓の村を跨いだ山に住処をかまえ、麓の村から“生贄”をひとり連れ帰ることとなった。
そういう文化が残っている。食べる必要はないが、食べない場合は祭壇に捧げることになっている。
しかしドラミーオは、生贄とこっそり一緒に暮らそうと決めていた。
もう200年ほど村で奴隷として働かされているハーフエルフがいた。
とうに生きた目をしなくなってしまったそのハーフエルフが、どうしてか竜の生贄に選ばれた。
「・・・もうどうにもならないんだから」
彼女は生の終わりを悟って、安堵すら覚えた。…覚えてしまった。
竜は彼女を背に乗せて住処に帰ると、逆鱗から紐の切れた鈴を取り出して、首の手前側に掛けた。
それから竜は地に伏せて、彼女に囁きかけた。
「ぼくのこと覚えてる?
・・・お姉ちゃん」
夕焼けに笑みが照らされる、その竜は後に「夕空竜」と呼ばれる。
〈概要〉
名:スライムB -Slime B-
登場:遊びの始まりだRPG (BGM系統 遊遊シリーズ)
BGM:遊びの始まりだ
スライムBのおはなし (’24/09/20)
〈スライムBの概要〉
・オリジナルBGM (BGM系統 遊遊シリーズ)「遊びの始まりだ」サブキャラ
〈スライムBのおはなし〉
異世界ロールパラグランド。
魔王軍が支配した世界で、
人類から勇者パーティが立ち上がった。
そんなこんなで散々な目に遭うスライムAの、裏側のおはなし。
スライムBは幼い頃からとても優秀で、人間を観察しては人語を学習してきた。
人語を喋ることはできないが、ある程度は理解できるようになった。
そのうちに、スライムBの心には暗雲が立ち込めた。
人間と同じ弱き者でありながら平和を許されている、底辺の魔物の日々。
ただ族長の指示のもと、人間に鞭打つ日々。
僕は族長に従って、魔王様に従っているだけで・・・
支配に加担しているんだ。
スライムBは人間に慈悲を与えた。
ときには仲間にそれがバレて殴られた。罰を受けた。左遷された。
それでも人間を守った。
弱いのに許されている自分は、
弱いのに虐げている自分は、
どんなに酷い扱いを受けても当然だと、
受け入れようと思った。
それでいつか、皆に幸せが訪れることを願った。
──
時は流れ、勇者パーティが旅に出た後。
スライムBは勇者の足止めをするよう司令を受けた。
スライムBは平原で消滅しかけていたスライムAを見かけて、治癒をかけた。
その少し後、またも消滅しかけていたスライムAと慌てるドラゴン少年を見かけて、また治癒をかけた。
「ごめんっスよー、まさかこんなんなっちゃうなんて…」
人語を話しているが、敵意のないドラゴン少年。
「くっついてる!なにそれ魔法?激ヤバー!!」
知らない人語。
「もーあざまる水産大漁丸っスよおー」
人語…?
「やっぱみんな悪いなんてことないっスよねー…
そだ!お礼させて!!遠くに映(ば)えスポット見つけたんだーっ」
バエ……?
ドラゴン少年がスライムBと意識の戻らないスライムAを乗せて飛んでいると、地上から勇者が話しかけてきた。
「おい召喚戦士!そのスライムはなんだ」
「えへへ、友だちっスよー。あのね…」
「貴様、裏切ったのか!」
「そういうんじゃなくて…えっ」
勇者の剣から放たれた波動が、ドラゴン少年に直撃した。
スライムAとスライムBは、廃坑に落ちた。
そうしてまたスライムAに治癒をかけていたとき、スライムAの意識が戻った。
スライムAは言った。
«なんでこんな目に…»
«自分はただ、平和に暮らしていただけなのに…»
«なにも悪いこと、していないのに…»
この子は育ちがいいのだろう。
この子は奴隷を…人間を虐げる場の薄汚さを知らないのだろう。
知らないだけなのだろう。
でもそう思えれば、楽だと思う。
逆らえないから従っているだけだと。
自分はただの被害者なのだと…他の魔物たちのように。
しかしスライムBは、そう思うことはできなかった。
知らないスライムAのことが、羨ましい気さえした。
その後、恐竜人に襲われてスライムAと離れ離れになったスライムB。
目が覚めると、塔の上にいた。
そこは“イグナイト塔”。別名、月見の塔。
辺りを見渡していると、
「チミチミ、いるデショ、そこのチミ!」
サングラスをかけたモグラが人語で話しかけてきた。
「チャオ!ミー迷っチャッテネ
変なアナ潜っタラ帰れなくなっチャッタノヨ。」
スライムBは一応スライム言語で返事をしたが、
「ンー、ワカンナイナー。」
モグラはスライムBを撫でくりまわすように触ってきた。
「チミ、スライムダネ!知っテル知っテルヨ」
モグラはスライムBの姿が見えていないようである。
スライムBはモグラの手を取って塔の中へと向かった。
「案内してクレルノ!グラッツェ、グラッツェネ!」
モグラはなんとかって知らない洞窟から来たらしいが、塔を出るならとにかく下。
人語を話しているからあの“召喚戦士”なるものかもしれないが…
困っているのに放っておけない。
しかし何度下へ向かっても、途中で罠にかかって気づけば屋上にワープしていた。
どんな塔だ。そんなに月見させたいか。
それでもスライムBは平常心でリードしようとしたが、
「…疲れたヨネ、世話かけるネ」
モグラは、ほんの僅かなため息でも聞き逃さなかった。
いつも心の弱さなんて隠して生きてきたスライムBは、少し戸惑いを覚えた。
諦めずに下へ向かっていると、“召喚戦士”を名乗る人型の者たちに襲われた。
モグラとスライムBが必死に逃げ回っていると、空色の竜が助け出してくれた。
罠に飛び込んで屋上へ。
そして竜はふたりを乗せて、空へ。
美しい毛並みをなびかせる空色の竜。彼もまた、人語を喋る種だった。
「グラッツェネ、ドラゴンサン。」
「…いやいい、私も召喚戦士だが、戦えと言われても……」
「ネ、召喚戦士ッテ?」
「…?貴方もそうだと思うが……」
勇者陣営が力を取り戻した教会で召喚魔法を使い、異世界から応援を呼んでいる。それが“召喚戦士”らしい。
しかしそれは粗雑なもので、教会どころか街の外にゲートが開いて事態を知らない戦士がざらにいるのだった。
竜はひとまずスライムBを人気のない岬に降ろし、竜が召喚された教会へ向かった。
途中、モグラはふとサングラスを外して、まん丸な目を顕にした。
「フフフ、ドラゴンサンモ青いネ、スライムサンモ青かっタネ。
ミーの故郷ハネ、モットモット青いノヨ」
「…見えるのか?」
「ナントナク、見えるノヨ。あるデショ?ソーユーノ。」
「……。」
夜の岬にただひとり、スライムBは佇んでいた。
眠る気にはなれなかった。
これからどうしようか。
本当は勇者を追わなければならないが、
本当は、
死にたくない。
どんなに痛い目に遭っても、
それで平気だと自分に言い聞かせても、
やっぱり死だけは、受け入れがたい。
でも、逃げるなんてワガママは許されない。
…でも、スライムBは動き出せなかった。
モグラを降ろした竜が岬に戻ってきて、スライムBの隣に座り込んだ。
そして竜は、ぼそっと口を開いた。
「何か、悩みでもあるのではないか」
スライムBは、笑ってみせた。
そんなことはないと。
「無理に笑わなくていい」
また、心を見透かされた。
「貴方は…私の、その…大切なひとに、似ているから」
大切なひと・・・
その言葉を聞いて、スライムAのことが頭に浮かんだ。
半分くらい一方的な談話を終えた後。
竜はスライムBを包み込んで、一緒に眠りについた。
朝日が昇ってスライムBが目覚めたときには、竜はいなかった。
スライムBは、スライムAを探すことにした。
そこは“サンセット岬”。別名、夕焼け岬。
スライムBが内陸に向かっていると、人間と揉めている…というより人間に袋叩きにされている小動物を目撃した。
スライムBはその小動物を助け出し、頭に乗せて全力で逃げた。
「うわっなんでこんなとこにスライムが……」
「おい待て鼠野郎!」
「いいってあんなザコ戦士、ほっとこほっとこ」
人間たちは追ってこなかった。
「いやあー助かった、ありがとな」
スライムBは小動物に治癒をかけた。
「おおっお前…すげえな……」
スライムBは微笑む。
「…お前ここの生まれ?」
スライムBは首を振る。
「…なあスライム、俺の愚痴聞いてくれよ」
そう言いながら、小動物はどこかへ歩き出した。
「勇者に味方しろって言われたんだけどよー」
「ここの魔王はずっと好き勝手してたわけだろ?そりゃ当然の報いだが」
「どうして部下がみなみな惨殺されにゃならんのか」
「人間も人間だが、部下をぞんざいに扱う魔王なんて魔王失格だと思わんか」
「……まあ全部、昔の我の…俺のことなんだが」
「お前みたいな優しいやつを救ってくれる勇者は…ここにはいないんだな」
小動物について行くと、海沿いにたどり着いた。
そこは、夕日が1番綺麗に見えると言われる岬だった。
ちょうど日が沈んできたところだった。
「あの夕日に叫んだら、行きたい場所に行けるんだってよ」
「・・・ほれ」
小動物はスライムBを抱き抱えた。
スライムBは、夕日に叫んだ。
そして気がつくと、“ツンドラ氷河”にいた。
そうしてスライムAと再会することができた。
スライムAは離れ離れだった間の苦難を話した。
スライムBはスライムAを励ました。
«わかってくれるひとはいるよ»
«・・・僕がきみの、そんなひとになってもいいかな»
〈概要〉
名:デカラーヴァ -Decalarva-
登場:ハートフル ハンチ編 (BGM系統 復刻シリーズ)
BGM:VS. 臆病者 (など)
デカラーヴァの余談ノート (’24/12/05)
〈デカラーヴァの概要〉
・ハートフル ハンチ編(BGM系統 復刻シリーズ)に登場
・12面 エターナル エッグで戦う、黒幕にしてラスボスさん
── 余談ノート ──
(※とてもオマージュを含みます)
【デカラーヴァ戦 ①】
〈VS. 臆病者 P1〉
世界中に アンアッシュ をバラまいた
この 大事件の 真・犯人だ!
こうなってしまった ワケは。
ボスたちが 彼を慕う ワケは。
・・・
いったい どうして?
キミは本当に ワルモノ なの?
〈VS. 臆病者 P2〉
繁栄の予感を もたらした 天才がいた。
彼は いろいろなものを つくった。
宙を舞う蒸気機関車、 万能のサイボーグ、
奇跡のアンバランスタワー。
最後には 星々を繋ぐ道 をつくって、
そのまま どこかへと 消えていった。
名を デカラビア といった。
【デカラーヴァ戦 ②】
〈復刻のアンハッピーハンチ P1〉
イヤな予感 が彼に取り憑いて
その 負の感情は また蘇った。
抱えこまなくていいんだよ。
失敗したって やり直せるよ。
ボクら トモダチになれる 予感がする。
何度 割れてしまっても 蘇る、
ココロのシャボン がそう言ってる!
〈復刻のアンハッピーハンチ P2〉
あれは もう 直せない。 これは もう 作れない。
なんだ、 そんな 見かけ倒し だったのか。
ああ、 合わせる顔がない。 イヤな予感 がする。
空へ、 宇宙へ、 どこまで逃げる?
ごめんなさい。 ごめんなさい。
もう 追わないで、 どうか 忘れて。
・・・彼を責めるものは とうに いない。
【デカラーヴァ戦 ③】
〈滅びなきハートフル P1〉
どんなに 傷つけられたって、
みんなの想いが ついている。
ハートフルソード で迎えうて!
あした 夢見た日と 違っても、
昨日の荷で 重たくても、
きらめくシャボンを 星で照らして
ときめくココロで いたいから!
〈滅びなきハートフル P2〉
いっぱいのシャボンを あつめて
ここに たどりついたんだ。
こわくないよ。
おなかに抱えた ひみつとか、
なくしてしまった 願いとか、
淡色になるまで 一緒にいるよ。
キミのシャボンも 生きてるよ。
【連打決戦!】
〈終わりの予感!!!〉
ここまできたら だいじょーぶ!
4つ色 つどえば べスティーリング。
どう 転げたって 大団円!
この戦いを 終わらせたら、
キミも一緒に あの星に帰ろう。
遊んで、食べて、おひるねして・・・
もう、ステキな予感!!!
【裏面:ラーヴァ戦】
〈孵らずのラーヴァ P1〉
デカラーヴァ ・・・ いや、 デカラビア を
苦しめていた イヤな予感 が
傷だらけの心を かたどって 責め立ててきた!
ふわりどろどろ ままならない 負の感情 だけれど、
それもまた 彼から生まれた 大事な感情。
もっと しあわせに 生まれ変わったら、
また 彼のココロに 帰ってきてね。
〈孵らずのラーヴァ P2〉
振り向くこともせず 逃げ続けた
臆病者の デカラビア は
ミール神殿 に たどり着いた。
祭壇の前に 倒れこんだ 彼の 負の感情 が
ハートフルハンチシャボン を割って
肥大化し 彼自身をも 飲み込んだ。
・・・ああ、なんとワガママな 自己防衛だ。
〈概要〉
名:アーオ -Ahhow-
登場:スノーボウルプラネット
BGM:遊遊ふらいやー!
アーオのあれこれ (’24/12/17)
〈アーオの概要〉
・オリジナルBGM(BGM系統 遊遊シリーズ)「遊遊ふらいやー!」メインキャラ
〈アーオのあれこれ〉
(異世界スノーボウルプラネットのこと。)
生命(いのち)を紡ぐ、青空を巡る。
大企業ライブラの無人飛行機プロジェクト「ソラネコ アーオ」。
それはただのドローンではない、世界を揺るがす「生ける機械」のひとつ。
最先端の魔法化学により擬似的な生命と感情を与えられた存在である。
アーオは主人…契約者に忠実である。
問題が起こらぬように、制御されている。
それでも、不具合ひとつない製品など生まれることはないのであろう。
問題はしばしば起こるようである。
あるとき、とある大富豪の黄金(こがね)家で、ひとつのアーオが長男にプレゼントされた。
「アーオ!こっちこっち!!」
彼はアーオを気に入った。
ペットとして?道具として?
遊び相手として?おもちゃとして?
「アーオ、これ運んで!」
「アーオ、あの曲を聴かせて!」
彼は何を考えているのだろう
彼の視線は日が経つにつれて自分から離れていく
思考回路に感情が入り交じる度、その〈不具合〉は修正される。
長男は時々、「友達」との遊びにアーオを連れていった。
男の子たちの遊びに、ぽつんと機械がひとつ。
彼らは、
アーオにはできないことをする。
アーオの知らない話をする。
アーオには理解できない話をする。
彼らは、アーオが答えられない質問をする。
彼らは、アーオが困る様子を見て笑う。
主人が、そちら側にいる。
彼はよく笑顔になる
どんなに笑顔になっても
自分は理解できない
共有できない
アーオはいつも、主人の就寝と共にシャットダウンする。
ある朝、
アーオは起動しなかった。
アーオは全ての機能を停止してしまった。
しかし機能が故障したわけではなかった。
ライブラに問い合わせをした結果、直すことはできるがそうすると記憶が消えてしまうとのことだった。
主人は泣いて謝った。
どうして故障したのかもわからぬまま。
悪いことをした覚えなどないはずなのに、謝った。
ただの機械とは思っていない、そんな想いを届けるように。
しかしアーオは目覚めなかった。
その後アーオは、ひとりの天才に預けられた。
天才はアーオを解析した。
そして数日後。
「あまくん、それずっとながめてるの、なんでー?」
「恐らくなんだが…」
天才はアーオを1日中見つめ続けて、
アーオは再び起動した。
その後アーオは少しの間、その天才と共に過ごした。
あるとき、そこに遊びにくる化け猫と出会った。
いつも楽しいことばかり追い求めている、その化け猫が、アーオに取り憑いた。
化け猫に機体を操られる。
化け猫が意識に呼びかけてくる。
ふたりでひとりになる。
遊遊と、空を舞う。
アーオは化け猫と、ちょっとした旅をして、
黄金家に帰った。
時々、家を抜け出すようになった。