– 低画質掘り下げシリーズ:概要 –
「低画質らくがきにALT(代替)で
うちの子を掘り下げるシリーズ」
としてTwitterに投稿している
掘り下げ文章シリーズになります
投稿日がその子の誕生日です
※1年でうちの子全員分投稿するわけではありません
※ツイートは遅刻しがちですが当サイトでは
間に合った場合の日付で表示します

〈概要〉
名:ユキト -Yukito-
登場:トリドリ日記。
ユキトのあれこれ。 (’23/12/06)
南の極地サウズフィナでユキドリの群れに生まれたが、仲間たちより寒さが苦手であった。
ただでさえ寒いのに雪浴びなんて正気じゃねえ!でも仲間たちは「それくらい平気だろ」と言った。母は「きっとそのうち平気になる」と言った。
ただ、父は実のところ寒さが苦手だったらしい。「少し感じ方が違うだけさ。本当に寒いときは皆くっついて過ごすじゃないか。それに誰も自分の羽毛に誇りを持っているから、強がっている部分もあるだろう。」
ユキトは若くして旅に出た。寒がりな自分の安住の地を探すため。そして、こっそり心に決めたことがあった。「いつか、すんげーあったけーもん持って帰るんだ!」
ユキトはその後、北国都市ホロトキで力尽きていたところをヒト族のマナヤに拾われた。それからしばらくマナヤとその家族の家に居候した。マナヤの妹、小学生マナカの絵日記で「ヒトは最後にマル(。)を付ける」ことを知った。
しかしある日、マナカが交通事故で突然この世を去った。
ユキトはホロトキ郊外で「最後にマルが付く日々」を目指して暮らし始めた。
イカがおいしい、都市がすごい、マナヤがいて、トモダチがいる。ちょっぴしさびーけど安住の地は既にここである。
しかし「あったけーもん持ち帰る」の答えは未だに出ていない。きっとそれが、故郷の皆の笑顔がユキトの最後のマルである。
〈概要〉
名:クリフ -Chrif-
登場:ドラゴン共よ冬を越せ

クリフのあれこれ (’23/12/25)
クリフの父、リュヌは内気な男であった。
彼は寒冷地フォルニャーダで同じ竜族のイヴと出会った。彼女は神をまつる一族の、明るく慈悲深い竜であった。
後にイヴと結婚したリュヌは、イヴの実家である山の洞窟で共に暮らすこととなった。そこにある土地神の祠を共に手入れするようになった。
神は然るべきときに導きの短冊を祠に落とす。そこではそうして信仰されてきた。
ある冬の日、フォルニャーダに地震が起きた。さらにその直後、嵐が訪れた。
地震など滅多に起こらぬ土地だった。その災害は神のお怒りと称された。
イヴは幾度も祠に祈りを捧げたが、神は短冊を落とさなかった。
そのとき神…竜神ターナは遠出していた。本来の土地神でないターナにはあるべき察知の力もなかった。
イヴは麓の村の民たちの重圧にあてられ、自己犠牲でこの世を去った。
それから次第にリュヌは心を病んでしまった。
神が恨めしいくらいだが、イヴがそれを望まないことはわかっている。
幼い息子クリフに対しても当たりが強くなった。
リュヌは自ら危機を感じ、クリフがひとりでも困らないように育てようとした。なんとか、なんとか。
しかし結果的に、クリフに自分は無価値だと思わせる形になってしまった。
とにかく祠を拭いておけばいい。笑って合わせていればいい。他人に興味を持って、ただし責任を押し付けられないように、遠巻きに。
リュヌの理想は、イヴの幻想と自らの願いで歪であった。
クリフはまだ、父の変わり様もわけがわからない歳だった。自分だって母がいなくなって寂しいのに。
しかし、イヴに似たクリフは「いい子」であった。
クリフはいつも気を遣う子になった。荒んだ父に怯えながらも、幼馴染のハロワに支えられ平気になっていった。
リュヌは祠に呻き声を上げ、嘆くばかりになった。
そのうち竜神ターナが、リュヌを南の島ココノツィアに送った。そこには頼れる土地神がいる。
クリフにとっては突然、父もいなくなった。
少し経つと、ハロワも旅する家業の都合でいなくなった。
その後クリフはヴァルに出会うまで、ひとりで暮らしていた。村に下りることもありながら、民に好かれながら、ひとりであった。
〈余談〉
クリフは正直サンタクロースに対して、いなかったらいいなと思っている。
来てくれた覚え、ないから。

〈概要〉
名:レモラ -Remora-
登場:がぶ氏と代理世界組
BGM:ちょっとマシ
レモラのあれこれ (’24/01/09)
そこはグランファンタジアという世界。
世界樹に浮遊大陸、魔境なんかがあって、魔法の源マナに包まれている。どこだって神が見守っていて、精霊が支えている…そんな世界。
レモラはそこで遅延の精霊として生まれた。
その名の通り何事も遅延させる魔法の力を持つ。他にできるのは浮遊すること、泳ぐこと。不器用で、喋ることもできない。
レモラは自分のできることを探した。何処へ行っても嫌われた。次第に悪魔と呼ばれるようになった。
他の精霊たちは星や文明に貢献しているのに。喋る精霊や表情豊かな精霊は文明と心交わしているのに。
自分は邪魔することしかできない。邪魔したいんだと思われている。
そのうち誰かに近づくことも躊躇うようになった。何かしようとして浮かぶ記憶は、怒号と、悲鳴と、恐怖と、嫌悪…。
何もしないでいたって、消えてしまうわけじゃない。でも消えてしまいそうな気持ちで生き続けた。ずっと、どこかが痛い。何か成し遂げないと、生きているだけで邪魔しているような気分になる。
何かしてもしなくても、だんだん自分が嫌いになって、自分の中の自分が底へ底へと沈んでいく。世界が怖くなって、弱気になって、悪循環に陥るほど、本当に何もできなくなっていく。
…どうしても何かしたくて、まだ時々誰かに近づく。
大丈夫、大丈夫。
「もう嫌われているはずだから」
根っからネガティブでたぶんもう治らない、そんな自分も嫌いだけれど、もうマイナス×マイナスでプラスにするしかできなくなった。
やらないよりはやってみた方がいい。
たぶん、きっと、ちょっとマシ。
ひと昔前、グランファンタジアで「異界の扉」が開いた。それからグランファンタジアの精霊たちは代理世界に出入りできるようになった。そしてしばらくして、レモラはがぶ氏の代理世界組と出会った。
最近は時々代理世界に遊びに(?)来る。がぶ氏に懐いているらしい。がぶ氏と代理世界組は、ただただ「かわいいねー」「またおいでねー」って、マスコット扱いしている。
がぶ氏の創作は、相変わらず遅れている。
〈概要〉
名:れう -Reu-
登場:れう×ぼえ
BGM:スペシャルムーン

れうのあれこれ (’24/01/31)
(プレシャスプラネットという世界のおはなし。)
れうの1番古い記憶。小さな幼鳥だったとき、彼は怪物に育てられていた。
とてもとても大きくて、あたたかくて、硬いようでやわらかい鱗が、ほろほろと剥がれ落ちるのが心地良くて。
そのドスの効いた声に、不思議と安心していた。そしてただ1つ、れうが今でも覚えている言葉がある。
「…に迷って…ときは、…ぼえの…方に、行く…がいい」
その怪物は本当の父ではなかった。れうも今ではそう察している。しかし、れうにとっては父であった。
…その怪物は、ある日突然いなくなってしまった。
北国の冷える森の中、まだ幼いれうを、捨てるように置いていった。
ただ、怪物はそこに手紙を残していた。
メーという知り合いのアヒルが拾ってくれると信じて。
『この赤子、遠からぬうちに巣立ちの刻が来る。それまででいい。どうか世話を頼まれてほしい。またも面倒事に巻き込んでしまうこと…本当にすまない。』
「ったぐも、あのひとっだら…」
メーはれうを拾った。れうと名付けた。
メーはアヒルの一家の母。3羽の息子と1羽の娘を持ち、森の皆に好かれていた。
4羽の雛鳥たちは、れうを不気味に思った。
れうは、どう見てもアヒルではなかった。か黒い羽毛に、目力の強い瞳、大きな犬耳。水鳥のようで、水に浮けない。
さらにれうは天然で、やることなすこと少しずつズレていた。それがまた裏目に出た。
そのうち「不気味のか黒い幼鳥」と噂されるようになった。面と向かって言われなくとも、れうにはそれがわかった。
少しして、スペシャルムーンという満月の夜。ふと、曇り空が開けていくのが見えた。
れうは光に誘われるように住処を抜け出し、草花を掻き分け、丘に立っていた。
青き夜、極上の月。心高ぶるままに…
「Awoooooooo──」
れうは遠吠えを上げていた。
気付けば全身に青い毛を纏って、美麗な狼の姿になっていた。
元々こうだったような気さえした。
れうは一度住処に戻ったが…
「……行ぐのね」
メーにだけはれうがわかった。
れうが心に決めたこともわかった。
そうしてれうは、「お仲間探し」の旅に出た。
旅の途中、れうはある怪物に出会った。
長い夜を終えた怪物…ボエが、森から旅立とうとしていた。
その姿がれうには、格別に雄々しく魅力的に映った。
ボエに突撃したれうは、ボエの名を聞いて驚いた。
『…ぼえの…方に、行く…がいい』いつかの怪物が…義父が言っていた言葉。
「うんめー!うんめーだべね!!!」
「ボエの方…?運命…???」
興奮しっぱなしのれうと、戸惑いっぱなしのボエ。
ボエは何とか思考を巡らせ、ふと本で読んだことを思い出した。
「……あ、それって、遠吠えのことじゃないかなあ」
なんだかんだあって、ふたりはそれから共に旅することとなった。

〈概要〉
名:ユヅキ -Yuduki-
登場:大惨時クロック
BGM:OVER☆HEART
ユヅキのあれこれ (’24/02/08)
そこは、中東の国“アワレーン”。
異世界スノーボウルプラネットの中ではあまり文明に開発されていない国。
獣人族より動物に近い者ら“獣(けもの)族”が多く、平和に暮らす国。
そんな国の、“レコラ森”というところ。
黒毛でおなかに三日月の模様を持つ、好奇心旺盛なクマの子がいた。
幼い頃のユヅキである。
彼はある日、白いクマに出会った。
「白いクマなんて初めて見た!かあっこいいなあ」
「……ほんとは白いクマじゃないんだけどね、なんか白かったの…生まれつき」
白いクマはおだやかな風貌。
「だからみんなぼくのことシロクマって呼ぶんだ」
「…名前は?あ、おれ、ユヅキ」
「ロロ」
シロクマというあだ名は、別に悪口ではなかった。
ただ、ロロのことをロロと呼ぶのは、ロロの家族とユヅキだけであった。
ロロは、ユヅキにとって一番の友になった。
「ユヅキ、それ、なに?」
「これな、油時計!」
少し遠くの“村”と聞くところで売られている、文明の利器。
幼いユヅキは、父に貰ったその油時計を、
いつも、懐に抱えていた。
ある日、ユヅキは道端でマッチの箱を見つけた。
「なんか入ってる…棒?」
彼はマッチというものを知らず、興味本位で触っていた。
「赤…赤。」
箱の側面、マッチの先端。
ぶつけてみた。当てて、動かしてみた。無邪気だった彼にとっては、それだけのことだった。
瞬間、マッチに火が着いた。
慌ててマッチを手放してしまった。
驚いて懐からこぼれた油時計が、岩に落ちて割れてしまった。
油に火が着いた。
燃え広がった。
「ま、まって…なんで……」
「…だれか!だれか!!!」
ユヅキは必死に逃げた。
近くにいた両親の元に向かった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
「もう謝らんでいい、とにかく…」
だが既に、どうしようもなかった。
周囲に危険を知らせること、そして自分たちが逃げることで精一杯だった。
ユヅキの父カヅキは、ユヅキを背負って走り出した。
しかし母モエワは運動能力に優れておらず、転んで脚を痛めてしまった。
「私のことはいいから…」
「…置いていけるか!」
息子であるユヅキが一番大切。そうは思っても、最愛の妻も大切で。
「ユヅキ!走れ!!!」
カヅキはモエワの肩を支えて、急いで逃げたが、ふたりは火に飲み込まれていった。
木々は次々と燃えて、騒ぎになっていった。
ロロにも騒ぎが届いた。煙が及んだ。火の粉が飛んできた。
今燃えているのは10メートル、20メートル、50メートル以上先かもしれない。だが今にも火傷してしまいそうなほど、その火の粉だけでも恐ろしい。その煙が、温度が、恐ろしく眩しい。そしてそれが、またたく間に近づいてくる。
そのとき。
「ロロ!!!」
ユヅキがロロを見つけた。
黒い煙の向こう、誰とも違う白いクマ。
ロロはその声で、ユヅキに気がついた。
「…ロロ、ごめっ、…逃げて……っ!」
ユヅキが燃えている方から走ってくる。
疲れ果てて、涙目で、足元の悪い倒木の中。
助けなきゃ。
ロロは、その一心だった。
「……っ!」
ユヅキに木が倒れてきた。
下敷きになったのはロロだった。
「ロロ…!なんで……」
ロロが、自分のせいで。
「重い…いやだ、まって、こんなの……っ」
「だれか…だれか……!!!助けて……」
ユヅキは何とか助けようとしたが、既に猶予はなかった。
「ユヅキ、逃げて」
「でも…っ!」
「行って!」
ロロは、ユヅキの脚を押した。
ちっとも力のこもっていない手で。
「ごめん…ロロ、ごめ、ごめん……」
いくら涙が流れても、火は消えてくれない。
ロロは火に包まれた。
「…白くて、よかった」
ユヅキにはよく聞こえなかった。
それがロロの、最期の言葉だった。
数年後。
もう獣族のひとりも住んでいない、森の焼け跡。
茶色の毛でおなかに三日月の模様を持つ、クマの少年がいた。
ユヅキである。
「…色、薄くなったかな。白じゃ、ないけど……」
ユヅキは、ただ泣き続けていた。
ちょっとした好奇心、考えなしにしたことで、全てを失ってしまった。
ここでは法で裁かれることはない。
誰に責められるわけでもない。
ただ、罪の意識に苛まれ続けていた。
そのうち、よその森“ワカトラ森”から来た小さな少年がユヅキに声をかけた。
少年の名はサハリ。ハリネズミの獣族。
「どうして泣いてるのさ」
「…、俺は……」
ユヅキは、この国にありもしない警察に自首するような勢いで、泣きじゃくっていた。
サハリは動じなかった。
「もう、もう俺は生きてちゃいけない…」
「馬鹿言わないで」
食い気味に言い放った。
「世界が見捨てる命なんてないから。
時間のある限り大切に生きないと。
…時間は待ってくれないよ。」
「……時間?」
サハリは語り出した。
「時の流れってまっすぐで愛おしい。でも、ひとりになっても前に進むっきゃないから。ちょっぴり残酷。
ひとりで進むのは大変だから、みんな一緒に生きていくんだ。
だからボクと、友だちになろうよ!」
そのときサハリは、ユヅキに油時計をプレゼントした。
…後にユヅキの宝物となる、星空模様の油時計。
「一度起きたことは無くならない。今キミがすべきことは、謝り続けることじゃないと思うよ。
キミの大好きな誰かが、キミのことを大好きだから、残してくれた時間でしょ!」
その日から、焼け跡に森を蘇らせようとする茶色のクマとハリネズミの姿が、度々目撃されている。
〈概要〉
名:ヴァル -Val-
登場:ドラゴン共よ冬を越せ

ヴァルのあれこれ (’24/02/14)
(ブレスホワイトという世界のお話。)
〈1. 父と母〉
ヴァルは南の島ココノツィアに生まれた。
ヴァルの父ツンガは、子どもの頃のヴァルにとって厳格な竜であった。
雄竜たるもの強く雄々しく育ち、立派に雌を守らねばならぬ。
ヴァルにそう教え込んだ。
…とうに、日々戦いの起こるような世界ではないのだが。
ヴァルが沈んだ顔をしているとき、母オオミはヴァルを抱いていた。
「おっかさま…」
父が怖いだなんて直接は言えない。母から怖いわよねと言うこともない。ただ、ほんのりあたたかい時間であった。
「お父さん…お父様はね、ホワイトお爺様に憧れているのよ。」
ヴァルにとっての祖父、それは父ツンガにとっての父。
「お爺様は戦を生きた勇敢な戦士。とても立派な竜(ひと)だったから…」
戦…1000年ほども前のこと。
「だからね、あれは強がっているだけなの。本当は頭の中、ふわふわなの。」
「…おとさまは、ふわふわ、いやなのだ?」
幼いヴァルは父のような振る舞いが雄らしいのだと思っている。そして自分に雄らしくなれと言うのだから…
「……ふわふわ、だめなのだ?」
母は答える。
「お爺様という理想のひとを見て育ったから、その理想通りに育つのがいい、それがお父様にとっての当たり前。
でもね、ヴァルは気にしなくていいのよ。…あのひと鈍感だから、仕方ないの。まっすぐなのが良いところで、悪いところなの。」
幼いヴァルには、難しいことだった。
〈2. 幼なじみ〉
子どもの頃、ヴァルは雌の幼なじみであるエルとマナとよく遊んでいた。
エルはよくヴァルをからかう子で、マナは真面目な子であった。
流行りのオシャレだとか、噂のイケメンだとか…そういう話題であれど、いつもヴァルは一緒にいた。
「見てマナ、こないだ言ってたリボン!」
「かわいい!いいなあ、どうしたのそれ」
「実はねえ」
楽しいお喋り。ただ、ヴァルにとっては、そこにいても少し遠いもの。
「~ヴァルにはわかんないでしょお」
エルのからかいに悪意はない。というかヴァル本人は、からかわれている自覚もない。
「…私も、かわいいと思うが」
そのリボンを、雄が好きだと言うのは、変なのだと思いながら。でも、幼なじみの前では、少し素直になれる。
雄のそんな発言をエルが別の意味で真に受けていることに、ヴァルは気づいていない。
時折、エルはヴァルにアクセサリーを付けて遊んだ。
「ほらヴァルちゃんかわいい~。てかウチらよりかわいいくね?ずるい」
「ま、またやってるの……」
マナはヴァルが嫌がっているのではないかと心配していた。しかしヴァル本人は、満更でもない。
はたまた、雑誌のイケメンの話をしているとき。
「やっぱ時代はタタでしょ」
「んー、完璧すぎてちょっとこわいかな…」
人気アイドル、ハスター。通称タタ。
「ヴァルはこういうの見ても…」
エルは、内心、嫉妬を期待していたかもしれない。
雑誌に見惚れるヴァルの表情に、エルは狂わされてゆくのだが、それはまた別の話。
〈3. 大将〉
ココノツィアでは、土地神が平然と住民に姿を見せて暮らしていた。
その土地神…竜神グランダは元々ココノツィアの土地神ではなく、世話焼きな彼は事情があってそうなったのだが。
グランダは住民たちに「大将」と呼ばれ、頼りにされていた。
「大丈夫。何の心配もない。ゆっくりと、その一つ一つが、やがて実を結ぶ故、な。」
「……。」
グランダが黒い細身の雄竜と話しているのを、ヴァルは幼い頃から度々目撃していた。
「りゅ…にゅ?」
「おお、ヴァル公。」
「たいしょー」
グランダの、優しい目。落ち着いた声。やわらかい物腰。幼いヴァルのグランダを慕う気持ちは、少年期を通して次第に恋に変わっていった…かもしれない。ヴァルはまだ自分のそれをよくわかっていなかった。
グランダと自分の間には障壁だらけで、そんな恋など存在しないものだと思っていた。
「大将、私は…私は……」
やはり自分は、父の求めるような雄にはなれない気がする。なりたいと思えない気がする。
青年期に差し掛かったヴァルは、グランダにほんのりと相談した。
「恋に…悩んでいます」
グランダは薄々それを感じていた。それを相談されればヴァルに提案することも、考えていた。
「フォルニャーダという寒冷の地に、竜神ターナという恋愛の神がおる。
滅多に姿を現さぬ…極一般的な、神であるが。
きっと貴方を気に入る筈だ。…曲者(くせもの)ではあるが。」
何だか歯切れが悪いが、ヴァルは気に留めなかった。
〈4. 旅立ち〉
雌の幼なじみと共にいたからか
かわいいと愛でられるのが嬉しかったからか
父に怯えて父と違うおじ様に惚れたからか
優しく抱いてくれる母に憧れを持ったからか
元よりそういう感性だったのか…
理由はハッキリとしないが、
自分は雄に惚れてしまうし、雄に愛されたいのだと
その事実はヴァルの中で、少しづつ明確になったから。
巣立ちのとき。ヴァルはフォルニャーダへと旅立った。
父にはぼんやり、修行の旅に出るかのように言った。
その後ヴァルはフォルニャーダで吹雪の中に遭難し…
同じ竜族の若者クリフに救われ、彼の住処に居候することとなるのだった。
それが決まったとき、住処にある神の祠に短冊が降りてきた。
「ドラゴン共よ 冬を越せ」

〈概要〉
名:ティエラ -Tierra-
登場:戦士と帽子
ティエラのあれこれ (’24/02/29)
〈ティエラの概要〉
・フルネーム…ティエラ=リェノ=リベルタ
・「星座爆弾」と呼ばれるスキル“エステラル”で相手を翻弄する戦士。
・ミナが闘技城に参入する8年前からずっと闘技城にいるようだが、あまり戦闘に参加していない。島中で度々目撃される、神出鬼没なレアもの。
・陽気で快活、よく笑う。しかし何を考えているのかよくわからない、ミステリアスなひと。
〈ティエラのあれこれ〉
(バタラデラントという世界のお話。)
ティエラが幼い頃、二度目の大規模戦争が終わった。
ティエラは物心ついた時には孤児院にいた。両親は戦争でこの世を去ったと聞いた。
ティエラはとても要領の良い子であった。勉強も、遊びも、労働も、他の子どもたちより優れていた。
孤児院の“母”が読ませてくれる本を、いつも楽しみにしていた。
ある日、“戦王伝記”という本を読んでいたとき。通りすがりの鍛冶屋の鰐獣人が帽子をプレゼントしてくれた。
それは“兜帽”…被ることで魔法や特殊能力が得られる、戦士の帽子。
貰ったのは無属性魔法の力を持つ恐竜のような帽子“サルトロオ”。
ティエラはその帽子の力を引き出し、数日にして空間跳躍スキル“エスパシオ”を会得した。
一瞬にして遥か遠くへワープできるスキル。その存在すら隠されるほどの、激レアスキルである。
ティエラは様々な場所にワープした。
本で読んだ場所、本で読んだもの。
戦争で壊れてしまった場所も沢山あったが、最初のうちは感動していた。
戦勝国。敗戦国。独立国。植民地。未開の地…
何処にでも行ける。何でも見られる。
本に書かれていなかった人々の気持ちも、本に載らない人々の姿も、敵国の正義も、何でも。
ティエラは星空を眺めるようになった。
何処にいても同じ空を見ているのに、違う星空が見える。
どれも正しい。どれも正しくない。
自分はどんな「星座」になりたい?
何処で何をすることを選んでも、喜ぶひとがいれば悲しむひともいる。
だったら、心の「気分」に正直に。
この世で1番、自由に生きる。
(しばらくして…)
強き戦士を目指す(?)ティエラの、今現在の目標は…
星空に辿り着くこと。
〈余談〉
ティエラが空間跳躍スキルを持っていることは、闘技城内でも知られていない。
〈概要〉
名:サハリ -Sahari-
登場:大惨時クロック

サハリのあれこれ (’24/03/03)
そこは、中東の国“アワレーン”。
異世界スノーボウルプラネットの中ではあまり文明に開発されていない国。
獣人族より動物に近い者ら“獣(けもの)族”が多く、平和に暮らす国。
そんな国の、“レコラ森”というところ。
「う、嘘……」
「これは……」
ハリネズミの獣族…その普通より指の少ない、サハリが生まれたとき。
両親は絶望に打ちひしがれていた。
「うまれたの?おとうと」
聞いたのはサハリの兄、ツナツ。
「……駄目だったのよ」
生まれなかったわけではないのだが。
サハリは『惨時の呪い』というものを持って生まれた。
「ツー、川の方で遊んでらっしゃい」
「?はあい……」
両親は、ツナツのいない間にサハリを焼却処分しようとした。
「燃やしてしまうしか、ないものね」
「薪はこれでいいか」
「後はこのマッチで…」
そのマッチ箱は、ツナツにはたき落とされた。
「…なんで?なんでもやすの!?」
「…ツー、盗み聞きだなんて」
「せっかくうまれたのに」
「この子は呪われているの」
「そんなよくわかんないことで」
「仕方のないことなの!!!」
「……っ」
ツナツがあまり主張すると、母から「罰」が下される。
「全くいけない子ね、ツーには見せないようにと思って…」
「だって…もやしちゃうなんて……」
怯えて、震えて、弱腰で、それでもツナツは抵抗した。
「…わかったわ。燃やすのは中止。でもうちでは育てられないから、ここに置いていく。いいわね。」
そんなことを言いながら、両親はツナツが寝静まってから燃やしに来るつもりでいた。
そうする前に、森を徘徊していたサメの獣族が捨てられたサハリを発見した。
若い頃のナツメである。
「おまえ、ひとりなのかー?」
サハリは、おとなしく寝そべっていた。
「なんでマッチなんて落ちてんだ…?」
サハリは、鳴き声のひとつも上げない。
「親はどこだよー?こんな赤んぼ置いて…」
ナツメはサハリを乗せて親を探した。
サハリはサメであるナツメに動じなかったが、次第に弱っていくのがナツメにもわかった。
「や、やべーかも…」
ナツメは“ワカトラ森”のトカゲの獣族、魔女マレーの小屋を訪ねた。
「ばっちゃん助けてくれ!」
「なんだい大声出して…」
魔女はサハリをあたため、ミルクを与えた。
「まだ生まれたばかりじゃあないか」
「親が見当たんなくてよお…おれ戻ってみた方がいいかな」
「……」
魔女は魔法でサハリを『鑑定』した。
「……戻っても無駄かもしれないね」
「え?」
「この坊や、呪い持ちだ。となれば…大方、予想がつくさね」
「それって……」
不安の表情を浮かべるナツメを横目に、魔女は呪文を唱えた。
「……アタシの解呪が効かない」
それはとても強大な呪いであった。
「…こいつ、育ててもらえねーのか?」
寂しそうな目を向けるナツメ。身寄りのない赤子。
魔女は放っておけなかった。
「暫くはアタシが面倒見てやろう。どうせ隠居して退屈していたところだ。」
「ばっちゃん!」
ナツメは喜んだ。
「いいかい。呪いのこと、この坊やには絶対に言っちゃいけないよ」
「おれはいいけど…ばっちゃんこそ隠し事できんの?」
魔女マレーは正直者。曲がったことが大嫌い、で有名である。
「…未来ある坊やに重荷背負わせるなんて、嫌なんだよ」
「ふーん……」
「なに、アタシが解いてやりゃあいいんだ。呪いなんて慣れっこさ」
魔女はサハリを育てることと解呪の研究に全ての時間を注いだ。
サハリが歩き始めても、言葉を話し始めても、呪いは解けなかった。
「危ないから入るんじゃないよ」
解呪の研究をするとき、魔女は絶対にサハリを部屋に入れなかった。
いつも取り繕わない義母の言葉、サハリは一度だって疑わなかった。
「ばあば、これなあに?」
「これはね──」
サハリは砂時計を気に入った。
「いつだってまっすぐに流れ落ちる。美しいだろう」
「まっすぐ…」
砂が、落ちきった。
「さんぷんきっかり」
「…っアンタ、やるね」
サハリの体内時計は、恐ろしいほどに正確であった。
サハリが少年になった頃、魔女は寿命を迎えた。
最期まで、サハリの呪いを解くことはできなかった。
サハリには何も言わず、小屋にひとつ魔法を残していった。
サハリは大きくなったから、次第に遠出するようになった。
「今度はレコラ森、行ってみよっと。焼け跡だそうだけど…」

〈概要〉
名:ノラ -Nora-
登場:野良犬と桃太郎 (#のらもも)
ノラのおはなし (’24/04/11)
それは、とある世界のおはなし。
動物が人間と同じ言葉を話す世界。
人間は賢いので、動物たちは人間の村に近寄りませんでした。
人間も、欲する食料以上には動物たちに干渉しませんでした。
「飼う」といったら、家畜や奴隷。
そんな世界の、とある村のおはなし。
畑の上手な若者が、野から連れてきた犬を家に住まわせると言いました。
理由は「かわいいから」。
「ペット」と名付けられたその犬は言いました。
「服従すれば狩りも争いもしないでいいってんですから、ラクなもんですよね。」
そのうち、村で「動物を飼う」ことが流行り始めました。
人間に甘んじたその動物たちは「飼い犬」、「飼い猫」…まとめて「ペット」と呼ばれるようになりました。
「いやそれ私の名前…まあいいですけど。」
しかしあるとき、突如として現れた鬼の軍に村が襲われました。
若者は…ペットの主は、ペットを庇って殺されてしまいました。
「ごめん、な…頼りなく、て……。」
(全くです。これだから人間は…)
本当はそんなこと思っていません。
(野良だった私が…どうして、どうして守れなかった?)
頼りないのは自分の方です。
その犬は野に帰りました。
(己を磨き直して、そしていつかは、鬼共を…)
首輪を付けたままのその犬に、
ひとりの若者が話しかけました。
それは…
「ももたろさん」と呼ばれる人でした。
〈概要〉
名:ヒギエア -Hygiea-
登場:やめちゃら系統
BGM:ぱれーどん@ヒギエア!

ヒギエアのあれこれ (’24/04/12)
〈ヒギエアの概要〉
・オリジナルBGM やめちゃら系統10「ぱれーどん@ヒギエア!」主役
・対応タグ:#スノーボウルプラネット
〈ヒギエアのあれこれ〉
そこは、かなた「きらめきの銀河」。
そこに浮かぶ惑星たちの間では、「太陽様」の話題が絶えない。
時には「デブリ」から銀河を守るスーパーヒーロー、時には誰もを魅了するスーパーアイドル。
きらめきの銀河の、平和の象徴である。
そんな太陽様に憧れる、薄暗い灰色の小惑星がいた。
名を「ヒギエア」という。
ヒギエアは、太陽様と違って恒星ではない。自分の力で輝けない。そんな惑星たちは反射の力が輝きとなる。
ヒギエアは、小惑星の群れ「ヒギエア族」の長であるが…
反射の力はとても弱い。
ヒギエアは昔、太陽様に助けられたとき、憧れを抱いた。その発熱の輝き、燃えたぎるエネルギーが、目に焼き付いた。
憧れはしたが、自分はヒーローにもアイドルにも程遠い。
「プロデューサーA. G. 」と名乗る「住民」に誘われたこともあったが、返事はしなかった。
きらめきの銀河では、憧れることは良くないこととされている。
どんな生命にもそれぞれの役割があって、そうして世界は巡っていると考えられている。
あるがままの自分を受け入れる、それも素敵なことだけれど。
ヒギエアの胸の内では、「憧れ」が止まない。
あるとき、ヒギエア族が「デブリ」に襲われた。
デブリ、それは住民たちに捨てられた物が闇に染まって生まれる怪異。
ヒギエア族には戦えるものがいない。近くにヒーローの姿もない。
ヒギエアは、戦うことを決意した。こんな自分でも、皆を守るべき長なんだ。
そのとき、小さな太陽のような球体がヒギエアの前に現れた。
それに触れると、ヒギエアの姿が変化した。
その表面は太陽の光を真っ白に反射した。C型の尾が大きくうねり、2つの角が雄々しく尖った。P字の飾りがぐんと伸びた。
小さな太陽はその下に、マイクのように棒を生やした。さらに周りには、無数の雪の欠片を浮かべる大きな輪を広げた。
ヒギエアがマイクを手に歌を歌うと、デブリが浄化された。
戦いが終わると、ヒギエアと小さな太陽は元の姿に戻った。
これは「太陽の加護」…小さな太陽が、そう心に告げた。
その日からヒギエアは、ヒーローになった。アイドルにだってなれる。
しかしそれは、かりそめの姿。どうして自分にご加護が与えられたのかもわからない。
いつか自分の力でこの姿になれるように。ヒギエア族の声援を受けて、ヒギエアの修行の日々が始まった。
──────────
Stare at youっ
真っ黒な闇の中
発熱(かがや)く表面(せなか)にキュンってして
──────────
ヒギエアは歌う。そして、いつか
──────────
Beside youっ
真っ白な星になって
反射(きら)めくマイクをキュってして
──────────
主催地:自分のパレードで
──────────
Plain Plain まだまだ小惑星
パレード on ヒギエア!
──────────
「超超元気でやってます!」

〈概要〉
名:ラック -Lack-
登場:JKドラゴンズ (#じぇけどら)
ラックのあれこれ (’24/04/16)
ラックは幼くして、生き方を教えられた。
その頃は山奥で両親と洞穴暮らし。
山菜や果物を探して、調理する。
バランス良く、適度に食べる。
身体を洗う、あと磨く。
そしてよく寝て、よく遊ぶ。
そうして生活するために、器用な魔法をいろいろと仕込まれた。
それから、祖先から受け継がれているらしい「幸福魔法」と…
「アイテム強化魔法」。これはラックに素質があった。
そして少年になる頃、両親は置き手紙を残していなくなった。
日常生活の心得と共に綴られている文によれば、「いずれ、また会える」…らしいが。
置き手紙を読んでいると、剣が現れた。
ガードに4つ葉を飾った、刃のやわらかい剣。
とりあえず持っておくことにした。
それから1年ほど経った。
もう涙は流さなくなって、何でもない日々を送っていた。そんなある日。
ヒト族の若い男女がやって来た。
「ドラゴンだ」
「えーっぷにぷにしてそー触っていいーっ?」
何だか楽しそう。
「…?うん……」
友だちのつくり方は、教えてもらわなかった。
「えー激ヤバーかわたんーっ」
何を言っているのかわからないけれど…
何だか楽しそう。
「なあなあ、ここら辺に映(ば)えスポットあるって聞いたんだけど…」
バエ……?
「そーそー、空に時たまクローバーの花火みたいのが打ち上がるって!」
「あー、もしかして…」
ラックは幸福魔法のひとつ「グロバラリウム」を空に放った。
「これのこと…?」
若者たちは圧倒された様子。
「えーっこれドラちゃんが打ってたのー!?」
「マジすげー!」
ドラちゃん……。
「なあんか心チルってるわあ…」
「それなー」
チル……?
「そーだ、これあげる」
何か渡された。
青く淡く、キラキラと輝くボトル。
「これは…?」
「アオハルソーダ!今トレンドなの!!」
トレンド……?
「…何これ」
味わったことのない不思議な味。
わくわく込み上げる、しゅわっしゅわ。
足早に去っていった若者たち。まともに会話もできなかったが、ラックはその日「青春」に憧れた。
そしてラックは、ヒト族の住む多彩の街「ベルナダ」に向かったのだった。
〈概要〉
名:クズク -Kuzuku-
登場:大惨時クロック
BGM:ミズ・キカズ・ミミズク

クズクのあれこれ (’24/04/25)
そこは中東の国アワレーン…から南東に少し離れた国、“ミンダラ”
クズクはそこで、森の集落“ヒヤリエ村”に生まれた。
ミンダラでは、ミミズクが『不幸の象徴』とされ避けられている。
だがクズクは小さな頃から意志が強かった。
皆に認められようと、皆に尽くそうとして、何度も近づいた。
それでもことごとく避けられた。
『関われば死期が近づく』と言い伝えられているのだ。
仕方のないことだった。
しかしクズクは諦めなかった。
自分のためだけではない。
家族を支えてくれる父と病弱な母に、しあわせな余生を送ってほしいから。
あるとき、都会からトカゲの3人組が越して来た。
そのトカゲたちはあっという間に村で信頼を得ていた。
だが彼らは花火だとか爆竹だとか危険な遊びをするものだから、正義感の強いクズクは何度も彼らを叱りつけた。
そんなある日、トカゲたちはクズクに歩み寄ってきた。
「なあ、アンタ差別されてんだろ?」
「そうですけど、私達ミミズクは嫌われるようなことは…」
「そうだよなあ、可哀想だ」
「な、なんです…?」
「オレたち、マジメちゃんは好きじゃねえけどさ」
「でも差別ってのはよくないよなあー」
「うんうん」
同情された…同情してもらえた。
クズクはそう思った。
初めてまともに話を聞いてくれる者たちが現れたのだ。
喜んで話をしているうちに、クズクは彼らに心を許していた。
そこにトカゲが問いかけた。
「差別を無くす方法、知りたいか?」
「無くせるんですか!?知りたいです!それは是非!!」
「自殺未遂」
「自…はい?」
クズクの身が震えた。
「アンタが『もうこんな生活嫌だー』って自殺するフリしてさ、オレらが止めるフリするんだよ。
そしてオレらが『なんて可哀想なんだ!差別なんて最低だ!無くさなきゃいけねえ!』…と喚き散らかしゃ村のヤツらも感涙よ」
トカゲたちは自信ありげな表情でクズクを見つめる。
「で、ですが、自殺未遂なんて…」
「なあに言ってんだ。そんくらいのことしねえとダメだろ。生ぬるいやり方じゃ差別は無くなんねえ、それをアンタは今まで味わってきたんだろ?」
「それは、そうですけど…」
やっぱり、そんなやり方はしたくない。
いつものクズクなら、迷いなくそう言っただろう。
「…じゃ復唱してみろよ」
「復唱?」
「復唱すると勇気でっからよ」
トカゲはクズクを木の幹に押し付けるようにして詰め寄った。
「自殺未遂するだけで差別は無くなる、完璧な計画だ
…ほら、言ってみ」
「自殺未遂するだけで差別は無くなる、完璧な計画
……です」
クズクは、押し負けた。
初めてのチャンスなのだ。
このチャンスを逃したら、このトカゲたちに見放されたら、もう次は無いかもしれない。
クズクは、無意識に追い詰められていた。
クズクと別れたトカゲたちは、不吉な笑みを浮かべて密談していた。
「ウマく行きそうだ」
「アイツうぜえんだもんなあ」
「うんうん」
クズクは気がつかなかった。
彼らが村で得た信頼は、都合の悪い者を排除してできあがったものだったと。
そして翌日。
「もう!耐えられません!!」
クズクは自殺するフリをした。
(ごめんなさい、パパ、ママ…。でもこれで、全部…!)
クズクはトカゲたちが止めに来るのを待っていたが、
トカゲたちはある録音データを流した。
『自殺未遂するだけで差別は無くなる、完璧な計画……です』
「…へ?」
あのときの、復唱。
どうして今、それが?
「みんな騙されるなー!アイツは死ぬ気なんてさらさらねえ!」
「ひとの優しさにつけ込もうとするなんて最低な野郎だー!」
「最低だー!」
トカゲたちの言葉に、クズクは困惑することしかできなかった。
今までは騙されることすら無かったのだ。
「…え、ちょっと、話が違」
クズクに石が飛んできた。
住民たちがクズクを睨んでいた。
住民たちはクズクに罵詈雑言を浴びせ、何でもかんでも投げつけてきた。
「…なんなんですか」
「なんなんですか、この村は!!!」
クズクはボロボロになって家へ帰った。
クズクは一休みして、落ち着いて…落ち着いてはいないが、腰を据えて両親に事の顛末を話した。
「本当に…本当に、ごめんなさい。パパ、ママ」
「いいのよ、もういいの…わたしたちのことは」
「そういうわけにはっ!
……っ」
母はクズクを抱きしめた。
「ねえクズク…旅に出てみてはどう?」
「旅…?」
「もう、ここには居づらいでしょう」
『愚かなクズクの悪事』は、もう村に知れ渡っている。
「クズクも巣立ちに丁度いい頃だ」
父も賛同している様子。
「いいえ、パパとママを置いて出て行くなんて…」
「行きなさい」
いつもは温厚な母が、クズクに強い眼差しを向けた。
「あなたはあなたの時間を生きるのよ」
翌朝。
「…行ってきます」
クズクはとても複雑な気持ちでいた。
家の外壁は昨日より傷ついている。
自分が招いてしまった、こんな状況で、両親を残して行くなんて。
…もう自分がいては迷惑なのかもしれない、とすら思った。
歩き出したクズクに、母が一言呟いた。
「クズク…愛しているわ」
「……ありがとう」
クズクは、背を向けたまま返事をした。
その声は、うるんでいた。
クズクが去った後。
「本当によかったのか、これで」
「…ええ。」
母は、一生の別れを悟っていた。
またしても、クズクは気がつかなかった。

〈概要〉
名:スライムA -Slime A–
登場:遊びの始まりだRPG
BGM:遊びの始まりだ
スライムAのおはなし (’24/07/04)
〈スライムAの概要〉
・オリジナルBGM (BGM系統 遊遊シリーズ)「遊びの始まりだ」メインキャラ
〈スライムAのおはなし〉
そこは魔王軍が支配した世界、ロールパラグランド。
人類は魔王軍のために辛く貧しい暮らしを強いられていた。
しかしある日、勇者の剣が力を取り戻した。
そして人類から勇者パーティが立ち上が
…ってしまった。
魔王が強欲だったからこうなってしまったのだ。何もおかしいことではない。
ただ、
特に悪さをしたわけでもない、支配を望んだわけでもない魔物の端くれたちは…
無条件に人類に恨まれ、覚えもない復讐を果たされてしまうのであった。
勇者に勝てるわけがない。
かといって人類に手を貸そうとすれば、裏切り者として処刑されてしまう。
そもそも魔王軍の幹部クラスでなければ、人間と喋ることもできない。
チュートリアル感覚で倒されてしまうスライム程度では、なおのこと…。
──
勇者パーティが始めに向かったのは、のどかな草木の茂る“プレインズ平原”。
そしてその最初の討伐相手に選ばれたのは、赤色の…いや、ピンク色のスライム。
きっとスライムAとでも認識されている、そのスライムは震えていた。
…闘志に震える勇者には、気づかれなかったようだが。
戦えと言われたって、能力値は最底辺。
剣も盾も握れない、か弱いスライムAが、勇者に勝てるわけがないのに。
今まで平和な日々を送っていたのに。
何も悪くないはずなのに。
気がつけば、目の前が真っ黒になっていた。
次に目が覚めたとき、スライムAは生きていた。
身体が消滅しかけていたはずだが、誰かに治癒をかけられたらしい。
周囲を見渡していると、空色のスライムがどこかへ這っていくのが見えた。
スライムAは後を追っていったが、途中で緑のドラゴン少年に遭遇した。
そのドラゴンは魔物ではない、人間の言葉を喋るドラゴンだった。
「ほえー、あっちのスライムにそっくり…」
そのドラゴンは、異世界から迷い込んだ異世界住民。
「魔物はみんな悪いって言ってたっスけど…うん、とりま…」
ドラゴンはスライムAに“幸福魔法”をかけた。
しかしそれは、この世界の魔物には毒だった。
スライムAの身体は再び宙に弾けた。
「…ありゃ?」
次に目が覚めると、目の前に空色のスライムがいた。
そしてそのスライムに、治癒をかけられている。平原で助けてくれたのも彼だった。
助けているのに「バレちゃった」と言わんばかりの、紳士な、にこやかなスライム。
…勇者にとってはスライムB、そんなところだろうか。
辺りを見るとそこは廃坑の地、“ロスト鉱山”。
ふたりはスライム言語で言葉を交わした。
スライムBが言うには、近くの町はもう勇者パーティに取り戻されてしまったらしい。
もうこの鉱山に人間はいない。
苦しい状況ではあるが、ひとまず安堵した
…のも束の間。
恐竜らしき獣人らしき何者かが、ふたりに襲いかかってきた。
「あそぼ、あそぼ!」
人間の言葉を話すそれは、異世界から迷い込んだ恐竜人。
近くの町で遊びのつもりで暴れ回り、
「鉱山の魔物にでも遊んでもらいなさい」と人間に吹き込まれて追い出されたのだった。
スライムAとスライムBは必死に逃げ回ったが、最後には彼の“超感覚”…エスパーな能力でバラバラに吹き飛ばされてしまった。
その後もスライムAの災難は続いた。
南国の“アロアロ諸島”に流されては、
その島々で狸と狐と鯨に立て続けにうっかり飛ばされ、
最後には合流した3匹に勘違いで懲らしめられかけ…
熱気の舞う“ヨーレ砂漠”に飛ばされては、
自称アイドルなウサギ少女のワガママに振り回され…
オーロラ色に輝く“ツンドラ氷河”で、ようやっとスライムBと再会できた。
氷河にスライムBの笑顔がきらめいて、スライムAは疑問を投げかけた。
«…どうして笑っていられるの»
うつむいたスライムAの頭を、スライムBが撫でた。
«どんなに転げ回っても、生きてさえいればいい。笑い話にできたら、いい思い出になるさ»
その後もスライムAは。
夜が明けなくなった森“イリュージョンフォレスト”で化け猫に懐かれては、
変わったハリネズミと気だるげな蝶にオバケと一緒に退治されたり…
一面の雲海“モーニングクラウド”まで吹き飛ばされては、
白い愉快な鳥と白いナルシスト鳥人の騒動に巻き込まれて冤罪をかけられたり…
そしてしまいには。
魔王の住まう“イービル城”に落下して、
再び勇者パーティに対峙してしまうのだった…。
スライムAはスライムBの言葉を胸に、最後の戦いに臨む。
〈概要〉
名:ファル -Pharvail-
登場:JKドラゴンズ (#じぇけどら)
BGM:だだほーだい!

ファルのあれこれ (’24/08/09)
異世界スノーボウルプラネットの絶滅危惧種、アルファルドワイバーン。
その目は1里先を見通し、
その角は雫の音を響かせ、
その鼻は雪の匂いを辿り、
その舌は食べ物を豊かにし、
その尾はそよ風に波打つ…
という。
その五感の鋭さに留まらず、魔法の源であるマナも敏感に感じ取る。
そして・・・
周りの生き物の感情をも感じ取る。
ただの便利な能力ではない。
自らの意思を強くもたなければ影響されてしまう。
「シンクロ体質」と呼ばれる。
この無限の可能性を秘めたアルファルドワイバーンという種は数世紀前、戦争をしていた国“ヒュダラ”で「都合のいいように使われて」しまった。
その後しばらくして、“竜を従えるヒト族”が戦勝国ヒュダラを訪れたとき。
アルファルドワイバーンたちはようやく、“研究所”から解放された。
しかしヒュダラは彼らを保護しなかった。
彼らを手放したくなかったはずのヒュダラの不自然な動き。
彼らを狙っていた世界中の“興味”によって彼らが離れ離れになっても、彼らが怪しい連中に攫われても、ヒュダラは動きを見せなかった。
そうして彼らは、前途多難の道を辿る・・・。
──
時は流れ、舞台は東の大国“キャラメリカ”。
アオハルに憧れたドラゴン少年ラックが、
壮年の竜ヴルムと出会って少しした頃。
ラックとヴルムが多彩の街“ベルナダ”に続く小道を歩いていたとき。
「それヤバいイチャイチャっぷりだねーって…」
「イチャイチャだと?」
「言われるっスよー。オレたち同棲してるんだもん。ジョークジョーク。」
「むう、くだらぬ…」
ボワアアアア・・・ッ
後ろの地平線に煙が上がって、ワイバーン…ファルが飛んできた。
続いて、白い防護服に身を包んだヒト族らしき集団が駆けてきた。
「っ!」
フラっと地面に落ちかけたファルを、ラックが抱きとめた。
「下がっておれ!!」
ヴルムが宙にブレスを撒くと、集団は姿をくらませた。
「此の翼竜、よからぬ輩に狙われておるようだ」
何か物憂げな目をしているヴルム。
ラックにとってはわけのわからない状況。
ファルはぐったりと倒れ込んでいる。
「えっと…そだ、病院?どしたら…」
「此れは精神的な疲労だ」
「ヴル…?」
「此奴は…否、何でもよい。アレを使え。」
「アレ?」
「…我と出会うた矢先の」
「!」
「グロバリウム!」
“幸福魔法”のひとつ。球状の液体が4つ葉を纏って宙に浮かび、ファルの身体を包み込んだ。
気を失ったままのファルの表情が、やわらかくなっていく。
「ラックよ、此奴のことだが…」
「?」
誰かが自分を心配している。
胸の辺りがもやもやする。
ラックに覗き込まれて、ファルは目覚めた。
「あっ起き…」
ファルはラックに抱きついた。
それからすぐ仰け反って、離れた。
「あ、あの、ありがと!」
ファルは落ち着きのない様子で話し出した。
「えっと、すごい、すごいね、あれ!」
「あれって?」
「あの、かぷせるみたいな…ふにふに!」
「グロバリウム?…寝てたときのこと、覚えてるっスか?」
「うん!」
ふと、強ばった表情のヴルムをファルが見つめ、ラックが口を挟む。
「あ、このおじさんいつもこんなんだから」
「そーなんだ…?」
おじさん扱いされているが、ヴルムはなんだか上の空である。
ファルが気を取り直して話し出した。
「いたいの、こわいの、さびしいの、とんでっちゃった」
「でしょでしょ?なんかこう、だいじょーぶって…まあ、気休めっスけど……」
ラックからなんだか切ない感情がこぼれた。
「…?」
縮こまったファルを見て、ラックはハッとした。
「でね!だからね!オレたちと一緒に暮らそ?」
唐突な提案である。
ラックはヴルムに手を当てて、続けた。
「このツンデレドラゴンが言ったんスよ!一緒にいたいって!!」
「おい待て其れは…」
何か言いたげなヴルムだったが…
「…んむ、此奴の云う通り……。」
ぼそりと、うなづいた。
「此奴との”同棲”なぞ嫌気が差していたところだ!」
本調子に戻った。
「これがツンデレっス」
「つんでれ」
それは怒りのようで、あんまり怖くない感情であった。
「ね、どお?」
ラックは改めてファルに詰め寄った。
先のことを考えるほど、ファルの中には心配の情が付き纏う。
誰かと一緒にいれば、その誰かを危険に巻き込んでしまう。
「タピって盛って映え写真撮って…楽しいっスよ!アオハル!!!」
しかしラックの心は、ワクワクでいっぱいである。
ファルの心はシンクロし、ほだされかけたが…
「で、でも、おれ、にげなきゃ…」
「独りで逃げて、またのこのこと捕まろうと云うのか」
「そそ!ヴルってめちゃつよだから!へーきっスよ!!一緒にいよ?ねっ」
その心の中に、ファルは希望を見い出した。
「…うんっ」

〈概要〉
名:ドラミーオ -Dramieo-
登場:どれどら (#どれどらи)
ドラミーオのあれこれ (’24/08/30)
異世界“スペルヘイム”。
かつて星を救った「大空竜」の伝説が残るその世界では、竜は大空を統べる種とされている。
強く気高くあるために長き生を授かる、絶対的な存在である・・・という。
強く気高く、誇り高く、、、
夕陽色の竜ドラミーオが、幾度となく父に言い聞かされた話。
ドラミーオは、西洋の地“ウズガルド”の聖地とされる山の頂の一族…少し有名な竜の一族に生まれた。
その歳1000を越える両親と、100以上離れた兄と、50以上離れた姉のもとに。
それから十数年が経った頃。
竜としてはまだ幼いドラミーオが、空を飛ぶ練習をしていたとき。
ボロボロの布切れを身に纏ったハーフエルフたちが鉱石を運んでいるのが、目下の山の中に見えた。
ドラミーオは、その集団を追って住処を抜け出した。言いつけられていた「庭」を、抜け出した。
しかし風に飛ばされて集団を見失い、天候は悪化し、遭難して帰れなくなってしまった。
途方に暮れて泣いていたドラミーオを、ひとつの影が包んだ。
ドラミーオが顔を上げると、ハーフエルフの少女が立っていた。
晴れ渡った空の下。その牙向きの笑顔が、木漏れ日に煌めいていた。
ほんのりと瞬くボロボロの布切れで、少女はドラミーオの涙を吹いた。
「明日は明日の風が吹く。」
弱く小さく、あたたかい声。
「・・・なんとかなるよ。だいじょうぶ。」
少女は懐から赤い紐の付いた鈴を取り出すと、ドラミーオの首に掛けた。
「お姉ちゃんが一緒に…」
なにか言いかけた少女だったが、
「──ッ!」
誰かに呼ばれて、慌てて去って行った。
自分も帰らなくちゃと歩き出したドラミーオは、父に探し出され父の背に乗せられて帰ることとなった。
帰ってからはがっつりと叱られた。ただドラミーオはそんなことよりハーフエルフのことが気になっていた。
しかし、その興味は許されなかった。
ハーフエルフはこの地において奴隷の階級である。気高き竜族は麓の文明のいざこざになぞ関与しない。
ただそう言われるだけだった。
それからまた十数年が経って少し遠くへの外出が許されたとき、ドラミーオはようやく「奴隷」の実態を目の当たりにした。
「どうして。」
麓の村に広がっているのは、ハーフエルフが人間にぞんざいに扱われる光景。
あんなに優しい子が、なんの罪もない子らが、重荷を背負わされている。
もう幼いときとは違うドラミーオは、勢い任せに行動に走ることはなかった。
言いつけられた通り、大人しくしていなければ。
しかし、あの日の少女への思いは消えなかった。
竜として己を磨き続ける日々。
肉体、精神、魔法の鍛錬。“神道”なる文学。
とても冗長で、退屈に感じた。
外の世界の噂が気になった。
けれど表面上は高尚に、従順に振る舞うようになった。
時々、竜でない種にだけ、気さくな自分を見せて、楽しく過ごした。
こっそりと、にこやかな竜の噂が立った。
・・・しばらくして。
200歳を越えて、巣立ちのときが訪れた。
ドラミーオは麓の村を跨いだ山に住処をかまえ、麓の村から“生贄”をひとり連れ帰ることとなった。
そういう文化が残っている。食べる必要はないが、食べない場合は祭壇に捧げることになっている。
しかしドラミーオは、生贄とこっそり一緒に暮らそうと決めていた。
もう200年ほど村で奴隷として働かされているハーフエルフがいた。
とうに生きた目をしなくなってしまったそのハーフエルフが、どうしてか竜の生贄に選ばれた。
「・・・もうどうにもならないんだから」
彼女は生の終わりを悟って、安堵すら覚えた。…覚えてしまった。
竜は彼女を背に乗せて住処に帰ると、逆鱗から紐の切れた鈴を取り出して、首の手前側に掛けた。
それから竜は地に伏せて、彼女に囁きかけた。
「ぼくのこと覚えてる?
・・・お姉ちゃん」
夕焼けに笑みが照らされる、その竜は後に「夕空竜」と呼ばれる。
〈概要〉
名:スライムB -Slime B-
登場:遊びの始まりだRPG
BGM:遊びの始まりだ

スライムBのおはなし (’24/09/20)
〈スライムBの概要〉
・オリジナルBGM (BGM系統 遊遊シリーズ)「遊びの始まりだ」サブキャラ
〈スライムBのおはなし〉
異世界ロールパラグランド。
魔王軍が支配した世界で、
人類から勇者パーティが立ち上がった。
そんなこんなで散々な目に遭うスライムAの、裏側のおはなし。
スライムBは幼い頃からとても優秀で、人間を観察しては人語を学習してきた。
人語を喋ることはできないが、ある程度は理解できるようになった。
そのうちに、スライムBの心には暗雲が立ち込めた。
人間と同じ弱き者でありながら平和を許されている、底辺の魔物の日々。
ただ族長の指示のもと、人間に鞭打つ日々。
僕は族長に従って、魔王様に従っているだけで・・・
支配に加担しているんだ。
スライムBは人間に慈悲を与えた。
ときには仲間にそれがバレて殴られた。罰を受けた。左遷された。
それでも人間を守った。
弱いのに許されている自分は、
弱いのに虐げている自分は、
どんなに酷い扱いを受けても当然だと、
受け入れようと思った。
それでいつか、皆に幸せが訪れることを願った。
──
時は流れ、勇者パーティが旅に出た後。
スライムBは勇者の足止めをするよう司令を受けた。
スライムBは平原で消滅しかけていたスライムAを見かけて、治癒をかけた。
その少し後、またも消滅しかけていたスライムAと慌てるドラゴン少年を見かけて、また治癒をかけた。
「ごめんっスよー、まさかこんなんなっちゃうなんて…」
人語を話しているが、敵意のないドラゴン少年。
「くっついてる!なにそれ魔法?激ヤバー!!」
知らない人語。
「もーあざまる水産大漁丸っスよおー」
人語…?
「やっぱみんな悪いなんてことないっスよねー…
そだ!お礼させて!!遠くに映(ば)えスポット見つけたんだーっ」
バエ……?
ドラゴン少年がスライムBと意識の戻らないスライムAを乗せて飛んでいると、地上から勇者が話しかけてきた。
「おい召喚戦士!そのスライムはなんだ」
「えへへ、友だちっスよー。あのね…」
「貴様、裏切ったのか!」
「そういうんじゃなくて…えっ」
勇者の剣から放たれた波動が、ドラゴン少年に直撃した。
スライムAとスライムBは、廃坑に落ちた。
そうしてまたスライムAに治癒をかけていたとき、スライムAの意識が戻った。
スライムAは言った。
«なんでこんな目に…»
«自分はただ、平和に暮らしていただけなのに…»
«なにも悪いこと、していないのに…»
この子は育ちがいいのだろう。
この子は奴隷を…人間を虐げる場の薄汚さを知らないのだろう。
知らないだけなのだろう。
でもそう思えれば、楽だと思う。
逆らえないから従っているだけだと。
自分はただの被害者なのだと…他の魔物たちのように。
しかしスライムBは、そう思うことはできなかった。
知らないスライムAのことが、羨ましい気さえした。
その後、恐竜人に襲われてスライムAと離れ離れになったスライムB。
目が覚めると、塔の上にいた。
そこは“イグナイト塔”。別名、月見の塔。
辺りを見渡していると、
「チミチミ、いるデショ、そこのチミ!」
サングラスをかけたモグラが人語で話しかけてきた。
「チャオ!ミー迷っチャッテネ
変なアナ潜っタラ帰れなくなっチャッタノヨ。」
スライムBは一応スライム言語で返事をしたが、
「ンー、ワカンナイナー。」
モグラはスライムBを撫でくりまわすように触ってきた。
「チミ、スライムダネ!知っテル知っテルヨ」
モグラはスライムBの姿が見えていないようである。
スライムBはモグラの手を取って塔の中へと向かった。
「案内してクレルノ!グラッツェ、グラッツェネ!」
モグラはなんとかって知らない洞窟から来たらしいが、塔を出るならとにかく下。
人語を話しているからあの“召喚戦士”なるものかもしれないが…
困っているのに放っておけない。
しかし何度下へ向かっても、途中で罠にかかって気づけば屋上にワープしていた。
どんな塔だ。そんなに月見させたいか。
それでもスライムBは平常心でリードしようとしたが、
「…疲れたヨネ、世話かけるネ」
モグラは、ほんの僅かなため息でも聞き逃さなかった。
いつも心の弱さなんて隠して生きてきたスライムBは、少し戸惑いを覚えた。
諦めずに下へ向かっていると、“召喚戦士”を名乗る人型の者たちに襲われた。
モグラとスライムBが必死に逃げ回っていると、空色の竜が助け出してくれた。
罠に飛び込んで屋上へ。
そして竜はふたりを乗せて、空へ。
美しい毛並みをなびかせる空色の竜。彼もまた、人語を喋る種だった。
「グラッツェネ、ドラゴンサン。」
「…いやいい、私も召喚戦士だが、戦えと言われても……」
「ネ、召喚戦士ッテ?」
「…?貴方もそうだと思うが……」
勇者陣営が力を取り戻した教会で召喚魔法を使い、異世界から応援を呼んでいる。それが“召喚戦士”らしい。
しかしそれは粗雑なもので、教会どころか街の外にゲートが開いて事態を知らない戦士がざらにいるのだった。
竜はひとまずスライムBを人気のない岬に降ろし、竜が召喚された教会へ向かった。
途中、モグラはふとサングラスを外して、まん丸な目を顕にした。
「フフフ、ドラゴンサンモ青いネ、スライムサンモ青かっタネ。
ミーの故郷ハネ、モットモット青いノヨ」
「…見えるのか?」
「ナントナク、見えるノヨ。あるデショ?ソーユーノ。」
「……。」
夜の岬にただひとり、スライムBは佇んでいた。
眠る気にはなれなかった。
これからどうしようか。
本当は勇者を追わなければならないが、
本当は、
死にたくない。
どんなに痛い目に遭っても、
それで平気だと自分に言い聞かせても、
やっぱり死だけは、受け入れがたい。
でも、逃げるなんてワガママは許されない。
…でも、スライムBは動き出せなかった。
モグラを降ろした竜が岬に戻ってきて、スライムBの隣に座り込んだ。
そして竜は、ぼそっと口を開いた。
「何か、悩みでもあるのではないか」
スライムBは、笑ってみせた。
そんなことはないと。
「無理に笑わなくていい」
また、心を見透かされた。
「貴方は…私の、その…大切なひとに、似ているから」
大切なひと・・・
その言葉を聞いて、スライムAのことが頭に浮かんだ。
半分くらい一方的な談話を終えた後。
竜はスライムBを包み込んで、一緒に眠りについた。
朝日が昇ってスライムBが目覚めたときには、竜はいなかった。
スライムBは、スライムAを探すことにした。
そこは“サンセット岬”。別名、夕焼け岬。
スライムBが内陸に向かっていると、人間と揉めている…というより人間に袋叩きにされている小動物を目撃した。
スライムBはその小動物を助け出し、頭に乗せて全力で逃げた。
「うわっなんでこんなとこにスライムが……」
「おい待て鼠野郎!」
「いいってあんなザコ戦士、ほっとこほっとこ」
人間たちは追ってこなかった。
「いやあー助かった、ありがとな」
スライムBは小動物に治癒をかけた。
「おおっお前…すげえな……」
スライムBは微笑む。
「…お前ここの生まれ?」
スライムBは首を振る。
「…なあスライム、俺の愚痴聞いてくれよ」
そう言いながら、小動物はどこかへ歩き出した。
「勇者に味方しろって言われたんだけどよー」
「ここの魔王はずっと好き勝手してたわけだろ?そりゃ当然の報いだが」
「どうして部下がみなみな惨殺されにゃならんのか」
「人間も人間だが、部下をぞんざいに扱う魔王なんて魔王失格だと思わんか」
「……まあ全部、昔の我の…俺のことなんだが」
「お前みたいな優しいやつを救ってくれる勇者は…ここにはいないんだな」
小動物について行くと、海沿いにたどり着いた。
そこは、夕日が1番綺麗に見えると言われる岬だった。
ちょうど日が沈んできたところだった。
「あの夕日に叫んだら、行きたい場所に行けるんだってよ」
「・・・ほれ」
小動物はスライムBを抱き抱えた。
スライムBは、夕日に叫んだ。
そして気がつくと、“ツンドラ氷河”にいた。
そうしてスライムAと再会することができた。
スライムAは離れ離れだった間の苦難を話した。
スライムBはスライムAを励ました。
«わかってくれるひとはいるよ»
«・・・僕がきみの、そんなひとになってもいいかな»

〈概要〉
名:デカラーヴァ -Decalarva-
登場:ハートフル ハンチ編 (BGM系統 復刻シリーズ)
BGM:VS. 臆病者 (など)
デカラーヴァの余談ノート (’24/12/05)
〈デカラーヴァの概要〉
・ハートフル ハンチ編(BGM系統 復刻シリーズ)に登場
・12面 エターナル エッグで戦う、黒幕にしてラスボスさん
── 余談ノート ──
(※とてもオマージュを含みます)
【デカラーヴァ戦 ①】
〈VS. 臆病者 P1〉
世界中に アンアッシュ をバラまいた
この 大事件の 真・犯人だ!
こうなってしまった ワケは。
ボスたちが 彼を慕う ワケは。
・・・
いったい どうして?
キミは本当に ワルモノ なの?
〈VS. 臆病者 P2〉
繁栄の予感を もたらした 天才がいた。
彼は いろいろなものを つくった。
宙を舞う蒸気機関車、 万能のサイボーグ、
奇跡のアンバランスタワー。
最後には 星々を繋ぐ道 をつくって、
そのまま どこかへと 消えていった。
名を デカラビア といった。
【デカラーヴァ戦 ②】
〈復刻のアンハッピーハンチ P1〉
イヤな予感 が彼に取り憑いて
その 負の感情は また蘇った。
抱えこまなくていいんだよ。
失敗したって やり直せるよ。
ボクら トモダチになれる 予感がする。
何度 割れてしまっても 蘇る、
ココロのシャボン がそう言ってる!
〈復刻のアンハッピーハンチ P2〉
あれは もう 直せない。 これは もう 作れない。
なんだ、 そんな 見かけ倒し だったのか。
ああ、 合わせる顔がない。 イヤな予感 がする。
空へ、 宇宙へ、 どこまで逃げる?
ごめんなさい。 ごめんなさい。
もう 追わないで、 どうか 忘れて。
・・・彼を責めるものは とうに いない。
【デカラーヴァ戦 ③】
〈滅びなきハートフル P1〉
どんなに 傷つけられたって、
みんなの想いが ついている。
ハートフルソード で迎えうて!
あした 夢見た日と 違っても、
昨日の荷で 重たくても、
きらめくシャボンを 星で照らして
ときめくココロで いたいから!
〈滅びなきハートフル P2〉
いっぱいのシャボンを あつめて
ここに たどりついたんだ。
こわくないよ。
おなかに抱えた ひみつとか、
なくしてしまった 願いとか、
淡色になるまで 一緒にいるよ。
キミのシャボンも 生きてるよ。
【連打決戦!】
〈終わりの予感!!!〉
ここまできたら だいじょーぶ!
4つ色 つどえば べスティーリング。
どう 転げたって 大団円!
この戦いを 終わらせたら、
キミも一緒に あの星に帰ろう。
遊んで、食べて、おひるねして・・・
もう、ステキな予感!!!
【裏面:ラーヴァ戦】
〈孵らずのラーヴァ P1〉
デカラーヴァ ・・・ いや、 デカラビア を
苦しめていた イヤな予感 が
傷だらけの心を かたどって 責め立ててきた!
ふわりどろどろ ままならない 負の感情 だけれど、
それもまた 彼から生まれた 大事な感情。
もっと しあわせに 生まれ変わったら、
また 彼のココロに 帰ってきてね。
〈孵らずのラーヴァ P2〉
振り向くこともせず 逃げ続けた
臆病者の デカラビア は
ミール神殿 に たどり着いた。
祭壇の前に 倒れこんだ 彼の 負の感情 が
ハートフルハンチシャボン を割って
肥大化し 彼自身をも 飲み込んだ。
・・・ああ、なんとワガママな 自己防衛だ。
〈概要〉
名:アーオ -Ahhow-
登場:スノーボウルプラネット
BGM:遊遊ふらいやー!

アーオのあれこれ (’24/12/17)
〈アーオの概要〉
・オリジナルBGM(BGM系統 遊遊シリーズ)「遊遊ふらいやー!」メインキャラ
〈アーオのあれこれ〉
(異世界スノーボウルプラネットのこと。)
生命(いのち)を紡ぐ、青空を巡る。
大企業ライブラの無人飛行機プロジェクト「ソラネコ アーオ」。
それはただのドローンではない、世界を揺るがす「生ける機械」のひとつ。
最先端の魔法化学により擬似的な生命と感情を与えられた存在である。
アーオは主人…契約者に忠実である。
問題が起こらぬように、制御されている。
それでも、不具合ひとつない製品など生まれることはないのであろう。
問題はしばしば起こるようである。
あるとき、とある大富豪の黄金(こがね)家で、ひとつのアーオが長男にプレゼントされた。
「アーオ!こっちこっち!!」
彼はアーオを気に入った。
ペットとして?道具として?
遊び相手として?おもちゃとして?
「アーオ、これ運んで!」
「アーオ、あの曲を聴かせて!」
彼は何を考えているのだろう
彼の視線は日が経つにつれて自分から離れていく
思考回路に感情が入り交じる度、その〈不具合〉は修正される。
長男は時々、「友達」との遊びにアーオを連れていった。
男の子たちの遊びに、ぽつんと機械がひとつ。
彼らは、
アーオにはできないことをする。
アーオの知らない話をする。
アーオには理解できない話をする。
彼らは、アーオが答えられない質問をする。
彼らは、アーオが困る様子を見て笑う。
主人が、そちら側にいる。
彼はよく笑顔になる
どんなに笑顔になっても
自分は理解できない
共有できない
アーオはいつも、主人の就寝と共にシャットダウンする。
ある朝、
アーオは起動しなかった。
アーオは全ての機能を停止してしまった。
しかし機能が故障したわけではなかった。
ライブラに問い合わせをした結果、直すことはできるがそうすると記憶が消えてしまうとのことだった。
主人は泣いて謝った。
どうして故障したのかもわからぬまま。
悪いことをした覚えなどないはずなのに、謝った。
ただの機械とは思っていない、そんな想いを届けるように。
しかしアーオは目覚めなかった。
その後アーオは、ひとりの天才に預けられた。
天才はアーオを解析した。
そして数日後。
「あまくん、それずっとながめてるの、なんでー?」
「恐らくなんだが…」
天才はアーオを1日中見つめ続けて、
アーオは再び起動した。
その後アーオは少しの間、その天才と共に過ごした。
あるとき、そこに遊びにくる化け猫と出会った。
いつも楽しいことばかり追い求めている、その化け猫が、アーオに取り憑いた。
化け猫に機体を操られる。
化け猫が意識に呼びかけてくる。
ふたりでひとりになる。
遊遊と、空を舞う。
アーオは化け猫と、ちょっとした旅をして、
黄金家に帰った。
時々、家を抜け出すようになった。

〈概要〉
名:ラタトスク(ラッター) -Ratatoskr(Ratah)-
登場:がぶ氏と代理世界組
BGM:天然のラタトスク
ラタトスクの文書(エッダ) (’25/02/09)
〈注意〉
この物語は異世界のお話です。こちらの世界の神話とは一切関係ありません
──────────
〈ラタトスクの文書(エッダ)の一節〉
異世界グランファンタジア。
そこに生まれた精霊ラタトスク…本人曰く「芸術家ラッター」のお話。
ラタトスクは世界樹ユグドラシルを囲う地、セントラルヘイムに住んでいる。
…とはいえ、いつもあちこち駆け回っている。
ラタトスクにとっては世界の全てが芸術であり、いつもその情熱のままに生きている。
しかしラタトスクにも、頼まれてやっていることがある。
世界樹の麓に住む蛇のニーズヘッグ(♂)と上に住む鷲のフレースヴェルグ(♂)の伝言役。
ラタトスクがふたりを絵のモデルにする代わりとして。
ふたりは不仲だが、本当は良き友であったらしい。
ある日のニーズヘッグの提案。
「…我らがふたりで居る絵を、描いてほしいのだ」
ラタトスクは双方から話を聞きながら、その絵を練っていった。
「曲がりなりにも友だ。情はあるから、今が苦しいのだ。
熱い想いを抱いている」
「イイねイイねー、ホットだねーっ」
「本当は愛らしい奴なのですよ。なんだかんだ、会えないと寂しいのです。
君の濃厚なタッチで、満たして」
「センチメンタルで燃ゆるブルー!それまたイイねーっ」
そうして絵を練っていくほどに。
「んれ?なんだっけ?」
熱い…苦しい……
抱いて…愛……
濃厚……
ラタトスクの脳内パレットは、フリーダムに、好き勝手に色を変えてしまう。
好きが、止められない。
「えっとー、アレが、コレでー。」
「んにゃ!これだ!!」
「これはイイ!素晴らしいーっ!!」
「愛情が慕情でワンダホーっ!!」
「いっつあオーバー☆ハートっ!!!」
そして出来上がったのは、ふたりの
暑苦しく
濃厚な
愛の、形・・・
──────────
(あなたは18歳以上ですか?)
・はい
▷いいえ
──────────
「んぬ?言われたとおり描いたよっ!」
「何を言いおったあの偏屈者!」
「アレがー、コレでー、こうでしょっ!!」
「まったくあのド変態は!」
まあ、そんなわけで
・・・ずっとそんな調子で。
この天然のラタトスク、いつも伝言を間違えていて。
そもそも不仲になったのもラタトスクの絵のせいであるのだが、
誰もそのことに気がついていないのであった。
〈概要〉
名:ジュン -Jun-
登場:占いたまえ浦本くん (#うら浦)

ジュンのあれこれ (’25/02/22)
異世界スノーボウルプラネット、浦内町。
ジュンの「黄金祭(こがねまつり)」家は、世界中に点在する富豪「黄金(こがね)」家の一端である。
ジュンの両親は、仕事で海外を飛び回ってばかり。
そのためジュンは、幼いときから大体は執事とふたりで暮らしている。
「それおれもやりたい!」
「てつだうてつだう!」
ジュンはそうやって、家族を喜ばせた。両親といる短いときも、執事ひとりのときも、しあわせに満ちた時間を作った。
小学生になって、ジュンはクラスで目立っていた。
活発で、親切で、優秀で、お金持ち。
何でもできる。
何でもくれる。
何でもしてくれる。
あるとき、コウタがジュンに話しかけた。
「ねージュン、ジュン。占いさせて?」
ふたりは幼なじみであるが、この頃は友だちと言うほどの距離ではなかった。
同じ3年3組になったから、占いがしたいから、なんとなく話しかけた。
「えっと…お金がぬすまれそうかも!ヘビに気をつけて…?」
「お金は金庫で厳重に保管されてるし、盗まれて困るほどウチには置いてないし…ヘビ?」
「そーなの!?しっぱいだあ…」
「失敗なのか…?」
「しっぱいだよお…」
「あとヘビって?ヘビが盗むのか?」
「わかんない…」
落ち込むコウタ、ヘビが気になるジュン。
「ねね、ジュンのこともっと教えて!いっぱい知ったら占い当たると思うの」
「占いってそれでいいのか?」
それからふたりは、いろいろな話をした。
好きな色だとか血液型だとか、そんな他愛もない話。
4年生になって、ある日。
ジュンが図書委員の手伝いで本を運んでいると、女子たちが占いの話をしているのが聞こえた。
「尽くすタイプだってー」
「あんたと相性いいのこれ、ジュンでしょー」
「最近よく一緒にいるもんねー」
「違うし!あいつが勝手に手伝いたいって近づいてきただけだし!!」
「えー?」
「あんなのないから!なんか紳士紳士うるさいし!!」
「あー」
「それはわかるー」
「変だよねー」
「変だし!なんかキモいから!!」
「あんなお子ちゃまとかないから!!」
「おちつけってー」
ジュンは執事に育てられて、紳士に憧れて、
皆に尽くしてきた。
…間違いだった?
抱えた本が、ぐんと重たくなった。
どうすればいい?
その本を全部読んでも、わからなかった。
何の本だったか、どうして読んだのかも、わからない。
ただ、ぼーっと。
翌日。
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き…」
花びらが、あと1枚。
「…何やってんだろ」
「……ずっと」
ジュンはベッドに突っ伏した。
皆きっと自分のことが好きなわけじゃない。
薄々思っていたことだった。
Ring Dong──
コウタが呼び鈴を鳴らした。
「ジュンジュン、あーそーぼ!」
ジュンはインターホンで喋ることはしない。足取り重く、しかし自分で玄関を出た。いつもそのまま一緒に行くから。
「ごめん、今日ノリ悪いからやめとくわ…」
「え、具合悪いの!?」
「あー、いや、遊ぶ気分じゃねえっつーか…」
「あそぶきぶんじゃない…???」
コウタはとても不思議そうな顔。
「あっそーそー、今朝の星座占いでね、うお座は気分転換するのがいいって。だから…」
「…いいって!!!」
八つ当たりだ。
「ラジコンとか?だったら…貸すからさ、……オレいなくても楽しいだろ」
「…どうしたの?」
コウタは寂しい目をした。
「…見て、これ」
コウタはロケットを取り出した。
開くとそこには、コウタとジュンの、ふたりで笑っている写真。
一緒にキャンプに行ったとき、ジュンのカメラで撮ったもの。
「ちょっと綺麗だからって、持ち歩くこたねーって…また貸してやるし」
「あのね」
「ぼくね、これ見てたらしあわせになるの。
こんなに楽しい時間がここにあるんだって、もっともっと一緒にいたいって」
「そんなの、オレじゃなくても…」
「ジュンがしあわせいっぱいくれるから、いっぱいお返ししたいんだよ。
しあわせとしあわせで楽しくって、つらいときは助け合って…そうやって、ずうっと友だちでいられたらいいなって、思うんだ。
だって、せっかく出会えたんだもん」
ジュンの瞳に、光が差し込む。
純粋な光。
「ねえジュン、ぼくなにかできないかな。
へたっぴ占いだけじゃなくて…」
「…なんで、そんなにオレのこと」
困り笑顔を浮かべたジュン。
「ジュンが楽しくしてたら、ボクも楽しい。ジュンが喜んでくれたら、ボクも嬉しいから。」
コウタが笑顔で応えた。
「ジュンは、なんで?」
「…え?」
「いつも優しいでしょ」
…そうだ、こんな笑顔が。
両親の、執事の、皆の…喜ぶ顔が。
一緒だ。
そうだ、迷うことはない。
「ごめんごめん、遊び行こ!」
「え、ジュン、だいじょーぶなの?」
「大丈夫になった!」
「?」
そうして、親友になっていった。

〈概要〉
名:大吉 -Daikichi-
登場:1発ネタプラネット
BGM:ソンダラホンダバ
大吉の1ページ (’25/02/25)
異世界ワンステージプラネット。
虎獣人の寅尾、ある年の初詣。
猫耳を付けているひとがちらほら。
(今年は豸(ねこ)年か…)
「あ、寅尾ーっ」
声の主はかぎしっぽの白猫獣人、大吉。
重たいはずの和太鼓を背負って旅をしている、寅尾の幼なじみ。
「帰って来てたんだな」
「ん!また愉快なこといっぱいあったんだー、聞いて聞いてよー」
ふたりはベンチで話し込んだ。
「それでそのとき、ドカーンって!それが爆発しちゃってー
それが本当に面白かったんだよねー」
「はは…
お前は相変わらず楽しそうで何よりだな」
乾いた笑いを浮かべる寅尾。
「寅尾は日々退屈?」
「親族が騒がしいから退屈はしないけど」
常々思う、
「…退屈なのは俺自身だな」
今だって、一応は初詣に来てみたけれど。何も変わらない。
起こさなければ、起こらない。
「俺は行動力とかコミュ力とか無いし
特に好きなことも無いし
ちとお前が羨ましいよ
…なりたくはないけど」
大吉は足を、足袋をばたつかせて、
珍しくたおやかに口を開く。
「君みたいに堅実に努力できるって
すごいことだよ?
僕は奔放に生きたいけどね」
「奔放に生きるって怖くないか?」
「平気だよー、意外と生きてる!でしょ」
「俺は怖いし
社会の歯車まっしぐらだよ」
「にゃはは」
相変わらずだなあ、という笑いを浮かべる大吉。
「頑張れDD
いいことあるさ!」
「だといいな」
あたたかな空気が、ふたりの吐息を包む。
──────────
〈小話〉
「大吉のバチ回し、いつ見ても凄いな」
「にへへ
久々にやってみるー?」
「…そうだな」
寅尾が何度回そうとしても、バチは鰻のようにその手から逃げていく。
「やっぱ無理だわ
お前が神だ」
「にゃはは
慣れだよ慣れ」
「寅尾はカード切るの得意でしょ」
「特段上手いわけじゃ…」
「僕あれできないもんー」
「得手不得手ってやつだね。
みんな違って、それぞれいいとこあるんだよね。それは一緒!」
「…お前はそういうやつだよなあ」
「んにゃ?」
──────────
〈余談〉
おみくじを引いた大吉。
「にゃーっ大吉だー!
やたー」
「すごくよく似合ってる」
〈概要〉
名:ガブリエル -Gabriel-
登場:がぶ氏と代理世界組
BGM:あーっちこっちで恥サラシっ

ガブリエルのいつか (’25/04/07)
代理世界
それは、全ての世界に通じているといわれる不思議な世界
そこにふと生まれる住民たちの多くは、世界移動ゲートを開くことができる
そして、異世界住民の代理を務める職に就く
「どこかの世界にただひとり、運命の相手がいる」
そんな言い伝えがある
──────────
ガブリエルは、
白い4つ葉たちの中に生まれた
鳳凰竜っていうんだって
いいことありそう
でもそんなでゃなくて
全部じき、だめにしてしまう
って思いながら
そんなことより嬉しくて
ふわふわと、過ごしてきた
無限に言葉がみえて
あれも、これも美しい
かわいくて、こわくて、
なにもわかっちゃいないけれど
いいな、って
思ってしまうんだもの
バスケット、いっぱいだけれど
連れ回したいんだもの
歩いていると、なんだか落ちつく
出会ったこともないひとたちを、
思い浮かべて遊ぶ
叙情に浸って、ずっとやまない
日が暮れても、目もくれない
(あっちもいいナ、こっちもいいナ)
いつの間に、葉が落ちている
(いいのカナ)
ふと、鐘の音がきこえて
天使色の輪が胸に広がって
眩しい言葉、13文字
ああ、、
忘れていたみたいだや
ちょっと、木漏れ日のそとまで
胸に両翼を置くと、あたたかい
それで、願いを込めて、魔法を起こす
「ディアーズロード」
自分の感覚とか、気持ちとか、、
誰かに共有できる魔法
(いつ身についたんだったカナ)
大切なひとたちへ、想いを送る
(・・・誰だったっけナ)
嘘偽りなく、伝えたい
ううん、
そうじゃなきゃ、うずうずしてしまう
なんだか、プライド高くって
我を押しつけて
いやだ、チキンになって
嘴をつぐんで
いつも、いつも後悔する
恥ずかしいナ
みっともないナ
弱いナ
小さいナ
真っ赤なの、ひとときなのに
秋雨、やまなくて
でも逃げ出したくないくらい
好きって、こともある
そうだ、天然って言ってもらえた
そういうことでいい、かな
難しいこと捨ててしまうし
いいやって思ってしまうし
・・よくないなあ
でもそれ以前で
根っから全て、ずれていたみたいで
どうしてだろね
だら、きっと届かないでしょ
だばね、、
「ディアーズロード!」
あるとき、知らないひとに届いた
世界移動ゲートが勝手に開いて、
その奥に
我に似たつり目のひとが
青、こぼしていた
そのひと
「ね。」
て、言った
あしもと、ぬれた

〈概要〉
名:ナギ -Nagi-
登場:占いたまえ浦本くん (#うら浦)
ナギのつじうら (’25/05/04)
それは逢魔が時。
浦内町のどこか四つ辻。
小柄なペンギン…ナギが、辻占いをしている。そんな日がある。
看板を掲げ、頼まれればそのひとを占う。
そうでなければ、誰かを想って。
…あるいは、自分のために。
通りゆくひとらの声を聞いて、その言葉からお告げを受け取る。
そうして答えを導き出す。
「百辻や四辻が占(うら)の一の辻 占(うら)正(まさ)しかれ辻占(つじうら)の神」
正しかれ、とはいうけれど。正しいというのは難しい。
占いは、とても難しい。
いや、軽薄に考えてしまえば、とても簡単にできること。
これは庶民の占い。
ナギが大事にしたいことは…
前を向いて歩きだす、その一歩を紡ぐこと。
…しかしやはり、正しさを探したい。
ナギは占いの易しさに感心し、難しさに心酔している。
「今日は掃除が吉だ」
「明日の山登りは凶だ」
「今は変化の時期だ」
「少し待ってみるとよい」
「赤色が助けになる」
答えを出すたび、
感謝される。責任も伴う。
しかし、これは庶民の占い。
平凡なのがよい。
ナギは、コウタとジュンと日常のように占いをする時間を
正直、一番楽しみにしている。
時折。ナギの父、授(さずく)がやってくる。
仏壇にコウテイペンギンを祀り、息子を皇帝(えんぺらー)と名付ける、変わった父。
親バカで、過保護な父。
父が占いを頼む相談事といえば、
「愛に悩んでいる」とか、「わだかまりがある」とか
…なんだそれ。夫婦円満のはずだろう。
「素直に心を伝えることが吉だ」
父は、ばつの悪そうな顔をする。
「…父上?」
「帰ろう、皇帝(えんぺらー)」
「…はい」
父が来ると、こうして帰ることになる。
「…すまないな」
父は時々、急に謝る。
「たとえお前が皇帝でなくとも、愛しているんだ…本当に」
父は時々、わけのわからないことを言う。小声で。
次の日になると、父はいつものように「皇帝の逸話」を語り始めた。
それは恐らく、ろくに伝承の残っていない「3つ葉の英雄」のひとりの話。
どうして知っているのか、どうしてナギに話したがるのか。
どうして、誇らしげなんだろうか。
〈余談〉
コウタはナギの易占いが好き。
コウタは易占いが上手くできないから…
いや、ナギのは格別で。
細い筮竹を連ねて、首から伸ばした羽毛で器用に踊らせる。
ジャラジャラ、ジャラ・・・
その音が、なんだか懐かしいそう。
〈概要〉
名:ガヴラ -Gavlla-
登場:惨状!怪獣戦隊

ガヴラのあれこれ (’25/05/05)
異世界ヒガラダイス、怪獣が人間に敗北した世界。
長きに渡り戦っていた人間と怪獣。
30年前、人間は「怪獣を小型化して弱体化する新技術」を完成させた。
早くに人間に屈した5体の怪獣は「怪獣戦隊」として「人間戦隊」に従い…
持たされた「怪起のペンダント」で一時的に元の姿に戻って、同胞であった怪獣と戦わされた。
弱った怪獣は次々と人間と同じ程度の大きさに縮められ、中央都市オンパロスの管理下に置かれた。
それから怪獣たちは、力だけを必要とされ虐げられて生きている。
ガヴラの父であるヒヴラは、赤のペンダントを持った怪獣戦隊の一体(ひとり)であった。
ヒヴラは怪獣がみな敗北してしばらくしたある日暴走して元の姿で暴れ回り、人間戦隊の赤であったルドルフを殺した
…ということになっているが。
ガヴラは知っている。本当は戦闘狂のルドルフが平和に退屈して暴走させたのだ。
いくら真実を主張しても、信じてくれる人間は誰ひとりいない。
殴られ蹴られ、罵られ、煙たがられて
…それでもガヴラは、まだ人間と和解する道を探している。
父が、そうしていたから。
ガヴラはあるとき、海辺でコンクリートを食べる鮫怪獣に出会った。
その鮫怪獣ガドロンは、青のペンダントを持っていた。
ガヴラは怪獣戦隊を一緒にやり直そうと提案した。
ペンダント持ちだから付き合ってやる、ということで仲間になった。
ガドロンは人間に復讐するとか世界征服とか言っているけれど…。
なんだかんだあって、
ペンダントを持った5体の怪獣が揃った。みな怪獣戦隊の実子である。
ガヴラは怪獣戦隊として、他の4体と共に人助けを始めた。(ガドロンは乗り気でない。)
「平和」な今、人間戦隊を受け継いだ人間戦隊の実子たちも、ささいな人助けをしていることが多い。
ある日、その今の人間戦隊たちが、ガヴラたちに歩み寄ってきた。
なんと、和解しようと言うのだ。
…それは本当は嘘で、怪獣戦隊を貶めようとして近づいてきたのだが。
ガヴラは心から喜んだ。
「和解?どの口が言いやがる」と手びれを突き上げるガドロンを抑えて、人間戦隊の手を取った。
しかしその後、
人間戦隊のひとり、赤のルドガーに心境の変化が訪れた。
人間に疎まれながら、文句も言わず助け続ける怪獣…
一生懸命で曲がりのないガヴラの姿に、ルドガーは心打たれた。
そしてルドガーは、ガドロンからあの真実を聞いた。
父ルドルフと、ガヴラの父ヒヴラの真実。
ガヴラは、ルドガーには言わなかったのだ。
ルドガーにとって自分は、父の仇の息子だから。今は、下手なことは言うまいと。
ルドガーはガヴラを呼んで、ふたりきりで話をした。
「…信じてくれるの?」
「君のことは信用している
…だが正直、信じきれない」
ルドガーはずっと、英雄の息子として育てられてきた。
「非力であるのに戦隊を継ぎ、
無条件に崇められ、
それに応えたいと追い続けた、
父の背中さえも嘘であったなら」
ルドガーは問いかけた。
「私は、
何を信じれば
どうあればよいのだろう」
ガヴラは、ルドガーの手を取った。
「キミはキミ、じゃないかな
ボクはキミが良いひとだって思う」
人間戦隊の本部。
ルドガーは管理官に、怪獣戦隊と本当に和解することを提案した。
しかし、
「少し自由にしすぎたようだな」
ルドガーの耳に、特殊な装置が付けられた。
翌日、様子のおかしいルドガーが怪獣戦隊のところにやってきて…
ガヴラを殴りつけた。
何度も、何度も殴り続けた。
ガヴラは心当たりを探しながら、謝り続けた。
見かねたガドロンがルドガーを殴り飛ばして、
特殊な装置が床に落ちた。
ガヴラは激情して、ガドロンの首を…スカーフを絞めた。
「…何してんの!
そんな…そんなことするから、怪獣が……」
「オメエこそ何してんだよ!!」
喧嘩するガヴラとガドロン。
怪獣戦隊の紫であるジャメラは、落ちた装置を観察していた。
装着した者を音波で洗脳する装置。
それについて話す一同、傍らで正気に戻ったルドガー。
そこでジャメラの発言で、ガヴラはもうひとつ真実を知ることになる。
──
この都市の人間は、ずっと音波で洗脳されていて
怪獣を嫌うように仕向けられている
──
ガヴラは、崩れ落ちた。
でも、そこにいるルドガーは、ルドガーは。
震える手をルドガーに伸ばした。
「キミは
和解したいって
言ってくれたよね」
ルドガーは思い出した。
『キミはキミ』
ルドガーは思った。
(君は、どうなのだ)
そしてルドガーは言った。
「私はやはり、君を許せない。
・・・私と戦え」
絶望に打ちひしがれた。
そのとき、怪獣戦隊のペンダントが光を放ち…
気がつくと5体は、元の姿に戻っていた。
…元の姿というか、本来の姿。
ビルを見下ろすほど大きい、怪獣の姿。
しかしガヴラはしばらく、意識を失っていた。
ガヴラは心の中で、父と再会した。
あの日、暴走の中、ルドルフを抱えて共に死んだはずの父と。
それは、ペンダントに残った父の意識だった。
ガヴラは胸の内を語った。
「人間たちが洗脳されてるって聞いたとき、いやになっちゃったんだ
…今までずっと、無駄なことしてたんだって」
涙が、こぼれる。
「本当はわかりあえるかも、しれないのにね、、
希望のはず、なのにね、、
悪い子、だよね」
父ヒヴラは謝った。
「私が悪い
ただ一体(ひとり)の我が子に
心のない『良い子』を
教えこんでしまった」
死んだ後もずっと、朧げな意識でガヴラを見ていた。
地に倒れ込んだヒヴラの意識は、ガヴラを見上げて語り続けた。
「……
お前がかっこいいと言ってくれた、
私の理想の果てがこれだ
酷く惨めな幕引きだ
どうかお前は
私を追うことなど辞めて」
「違うよ」
ガヴラは屈んで、ヒヴラにまっすぐ目を向けて言った。
「おっ父(とう)は、かっこいいよ」
「おっ父(とう)のこと慕う気持ちは、ずっと本物だよ」
ガヴラがヒヴラの手を取ると、ヒヴラの意識が宙に溶けていった。
そしてガヴラは、目を覚ました。
心の中と同じ元の姿で目を覚ましたガヴラ。
辺りを見渡すと、巨体で暴れ回る怪獣戦隊の4体。
人間戦隊の青、黄、緑、紫は倒れ込んでいる。
ガヴラは怪獣の言葉で4体と話して、状況を把握した。
怪獣戦隊の黄であるリプテスが、洗脳音波の発信源を灯台と特定して壊したりしていたそう。
ルドガーは、戦闘用に大きくなった身体でガヴラの目覚めを待っていた。
いろいろ考えて…
ガヴラはルドガーに向き合った。
手と手を交わして戦った。
とどめに、両手を擦り合わせ生み出した火の玉を放射してルドガーに吹き付けた。
それから小さな姿に戻った怪獣戦隊。
都市は惨状、嘆きの嵐。しかし晴れ渡った空。
ガヴラは考えた。
都市の外でも、怪獣は虐げられている。
きっと、音波で。
どうせここにはいられないし…
「全部、壊しにいこうかなって」
「…一緒に来てくれる?」
そうして、怪獣戦隊は都市を後にした。
…ルドガーは、辞表を出して姿を消したとか。

〈概要〉
名:アズラ -Azzura-
登場:ジノーマス グローブ編 (BGM系統 開墾シリーズ)
BGM:カヴェルナ;カデーレ
アズラのあれこれ (’25/06/02)
鼻が利く、耳が良い、しかし目は弱い。
つぶらな瞳の、テッラモグラ。
そんなアズラは、争いの地に生まれた。
“マーレ;ディテッラ”
周りの国がみんな、その地…その海を求めた。
「今日モ青いネ、チベたいネ」
アズラの目にはよく見えなかった。
争いも、よく見えなかった。
うっすらと、けれど激しい。
風が荒れ狂い、音が土をつんざく。
きっとそこにひとりでいたら、アズラの生は終わっていた。
いつもアズラを助けてくれる、青いひとがいた。
いつもアズラと手を繋いで、引っ張ってくれた。
その手触り、その声、その匂い、
その色に安心した。
「グラッツェ、グラッツェネ!」
アズラは数え切れないほど、お礼を言った。
「ネ、ドウシテ助ケテくれるノ?」
青いひとは、答えなかった。
そのひとになにかお返しがしたくて、
プレゼントをしてみたり、
歌ってみたり、踊ってみたり、
いっぱい、愛情表現してみたり。
そのひとはいつも笑ってくれた。
しかし密かに溜め息をつくのが、気にかかった。
そのうち、争いが終わっていった。
青いひとは姿を現さなくなった。
青いひとが最後に言っていた、
「一面の青が…欲しかった」
という言葉が、アズラの中を巡り続けた。
青いひとが最後にくれた、青いサングラスが
…アズラの心を揺さぶった。
アズラは初めて、どこかへ行こうと思った。
そして辿り着いたのは、
辺り一面、青い洞窟。
進めど進めど、どこまでも青い。
進んでいくと、どこからか歌が聴こえてきた。
・・・・・・・・・・・・・
可愛げが見えた
やだ小悪魔でした
苛立ちが見えた
あらグルグルどちら
溜め息が見えた
霜(しも)となりでアワワ
したりげが見えた
だら正解だって
ニャーダ
・・・・・・・・・・・・・
不思議な歌に、近づいていく。
・・・・・・・・・・・・・
優しさに見えた
ただ迷宮でした
圧力に見えた
らば重力ちらら
カヴェルナ;カデーレ
潮(しを)数えて幾ら
したたりが見えた
だば正解なんて
ニャーダ
・・・・・・・・・・・・・
その歌声のする辺りに、影が見えた。
「チャオチャオ!チミ、ココのひと?」
声をかけてみた。
「あれ、見ない顔だねっ」
その歌のひとは、この洞窟のことを教えてくれた。
“カヴェルナ;カデーレ”
横にも上にも地面が張り巡らされていて、
気がつけば壁を這い、天を歩いている。
そんな不思議な洞窟。
「青くて、青くて…イイネ」
「うむ!みんなそう言うけど…
キミはもっと特別な感情、抱(だ)いてそうっ」
歌のひとはサングラスを持ち上げて、アズラのつぶらな瞳を覗いた。
「ミーのトモダチが欲しがっテイタノ、一面の青…コンナ風だっタノカナ」
「…そんなこと言ってるひと、いたなあ」
「エ?」
「もうあがってったけどねっ」
「あがったッテ?」
「実はこの洞窟、マーレ;ディテッラっていう海に繋がってるんだけどっ」
ここは天も地もない、不思議な洞窟だから
「…落ちたら、あがりなの」
「……」
「慣れてないとうっかり落ちちゃうからさ、ボクが案内したげるよっ」
「ホント?グラッツェ!」
「ほら、手え繋ごっ」
「スィー!」
(……手、繋いでいタカッタナ。)
そのうち、その洞窟が第2の故郷になった。
〈概要〉
名:ヒッチ -Hitchi-
登場:大惨時クロック

ヒッチのあるとき (’25/06/08)
(ヒッチとナツメの少し若い頃、サハリの小さい頃のこと)
そこはタッシェ海底火山。
不思議な泡とか、マナだとか…ありがたいものを噴き出す、“安全な火山”。
タッシェ海の王者となった鯱の獣族ヒッチが、その火山をはたいて回っていた。
「なー、なにしてんだよー?」
周りをうろつくのは隣のザック海の親方、ナツメ。
いつも大勢の民と愛を育む鮫の獣族。ヒッチにもベタベタ絡みついてくる。
「御前には関係ない」
「カンケーないでも知りたいだろー」
「御前に言ったとてな…」
「?」
塩っぽいヒッチと、訝しむナツメ。
ナツメは海面へ上がっていく。
「ヘンだ!そんなんじゃオレ、他のヤツとイチャイチャしちまうぞ!!」
「幾らでもしておれ」
というか、いつものこと。
「…なんなら、暫く来ない方がよさそうだ」
その呟きはナツメの耳に届いた。
なお、そう言われて来なくなるナツメではなく。
3日後のタッシェ海底火山。
「へいヒッチー!」
「黙れビッチー」
ヒッチはいつものようにナツメを振り払う。
…と、後ろにもうひとり居た。
不思議な泡“ツァルトバブル”に包まれた、小さなハリネズミ。
「其方は…サハリといったか?」
「あたり!」
魔女マレーに育てられているサハリ。ナツメに連れられてとはいえ、遠いタッシェ海へ来ることは珍しい。
「どうしてまた」
「ばあば、ずっとまほうつくってるの」
「ふむ…」
「そんでタイクツそーだから、連れてきちった𖤐」
「退屈、というか…」
ヒッチには少し、違う表情に見える。
「……」
「しかし…折角だが今日は帰ってくれないか。遊びに来たのなら遠いところにして……」
「あ?なんで?」
「この火山は…危険だ」
「ここって安全なハズじゃねーの?」
「このところ岩盤が変質している。このままではマグマに熱された海水がマナを取り込み、高圧の魔蒸気が岩石を…」
「…つまり?」
「火山がダンプフロード…つまるところ、爆発を起こして失われてしまう」
「爆発!?」
「ばくはつ」
サハリは不思議そうな顔をしている。
ナツメがヒッチの胸びれを引く。
「ならさっさと逃げねえと…」
「案ずるな。魔術師の調査によればまだ7日ほどは猶予がある」
「ゼッタイじゃねえだろ」
「民たちには危険が迫れば避難できるよう指示してある」
「オメエも大事なんだよ!」
ナツメが、普段しない表情をしている。
「……」
ヒッチは気を取り直した。
「私は王者としての責務を果たさなくてはならない。否(いや)、果たしたい。
皆にとって大切なこの火山を…守る方法を探したい」
「まもる?」
サハリが寄ってきた。
「うむ、爆発を防ぎたい…せめて、この火山の形は遺したいのだ。」
「そんなに、なくしたくないの?」
「む?」
「なくなるのも、さだめでしょ?」
ヒッチは面食らった。
「斯様に小さき子が…」
ナツメが一言添える。
「ばっちゃんがよく言うんだよな…」
サハリは、魔女マレーとの会話を思い出していた。
───
「アタシゃもうじき死んじまう。それが運命(さだめ)ってもんなのさ」
「ばあば…」
「安心をし、美しい死に際にしてやるさね」
───
サハリは魔女マレーを心から尊敬し、彼女の在り方が美しいと信じている。
しかし、心のどこかで…
ヒッチは話を続けた。
「この海底火山は皆を救い、皆に望まれ、皆に愛されて生きている」
「私の愛する民たちと共に生きるのだ。それはきっと悪いことではないと、私は信じておる故。
たとえ我儘だとしても、私は己を恥じない」
「…さだめは、うつくしいって、ばあばが」
サハリは、心なしか震えている。
「たしかに受け入れることも美しいかもしれない。しかし、諦めたくないのだ」
その眼差しは、魔女マレーに似ていた。
何かを諦めないで、何かを後悔しないように、ずっと魔法部屋にこもっているばあば。
静まり返った海底に、ナツメが一声。
「…わーったよ」
ナツメはふっと、呑気な顔をして見せた。
「オレもなんか、してやりてえーなあ」
サハリはハッとした。
「てつだう!」
澄んだ瞳が、ナツメとヒッチを刺す。
「おー、手伝うかー」
「否(いや)、その子は置いてきなさい」
ナツメは色めかしい顔つきをした。
「…やっとオレを頼ってくれるんだな♡」
「よせ気色悪い」
ヒッチは顔を伏せて、呟く。
「…しかし、私もあれな表情をさせておったのだと、思った」
「おん?」
「何でもない」
さてどうしようかというところに、鯱の獣族が集まってきた。
「僕たちにも、お力添えさせてください!」
それは、優れた聴覚“エコシュテレート”で話を聞いていたヒッチの部下たち。
「ヒッチ様、魔術師様からご提案があります」
それは火山を守るための作戦。
「しかしそれでは其方等にまで危険が及んでしまう」
「ヒッチ様。火山を守りたい想いは、僕たちも一緒です」
「しかし…」
泳ぐヒッチの視線の先に、部下たちが回り込む。
「心配ご無用!なんたって僕たち」
「このタッシェ海のエリートですよ!」
「ね!」
「ねー!」
その笑顔に秘めた強い意志に、ヒッチはいつも助けられてきたから。
「わかった」
ヒッチは、彼らの命の責任を負うことにした。
かくして。
7日後、火山が爆発の兆しを見せる中。
ヒッチと部下たちと魔術師とナツメは、火口に潜り込んでいた。
事前に火口に不思議な泡“ツァルトバブル”を敷き詰めた。噴火に対して皆でそれを押し込んで、爆発を抑え込む。
魔術師が合図を送ると、ヒッチの先導で皆が魔道具を構える。
火山が激しく震え上がり…
「…来るぞ!」
ついに、爆発を起こさんとする噴火が始まった。
「今だ!!!」
皆で力を込めて爆発を抑え込む。
しかしその威力は恐ろしく、抑えきれないかと思われたところ…
避難したはずのタッシェ海の民たちが入って来て、共に爆発を抑え始めた。
「其方等、何故…」
とまどうヒッチ。
「やっぱり、みんな一緒なんですね!」
部下は誇らしげな様子。
「……すっげ」
ナツメは、どこかうつろげ。
大きな群れの力が、噴火を包み込んだ。
そうして、タッシェ海底火山は爆発を免れた。
事態が落ち着いた後。
「世話になったな、ナツメ」
「オレは大したことしてねーけど…」
「きっかけを与えるということは、大したことだ」
「…なんだよデレか?デレデレか?」
頬を赤くしてヒッチを触り舐め回すナツメ。
「おいやめろ」
ヒッチがいつものように拒んでいると、ナツメが徐に離れていった。
「オレよか、なー…
オマエの海のヤツら、すげえんだな」
「私の海ではない。
皆の…
皆のこと、私も甘く見ていたようだ」
ヒッチは、もっと民を頼ることにした。
「…御前のことも、か」
「おー、じゃんじゃん頼ってくれな!何でもしてやるかんな!えっ」
「断る」
「言わせろよ!」
なんだか噛み合わない、ふたりである。